「1000円理髪店」 安月給と思ったら高収入が得られる独立開業への早道だった

月給50万円を貯めれば3年で自分の店が持てる

「3B」という言葉がある。若者に人気のある仕事のうち特に収入の少ない業種を表すらしい。Bは「貧乏」の意味とそれぞれのイニシャルを掛けていて、バンドマン、バーテンダー、そして美容師なのだそうだ。先日、20代の女性に教わった。

若い美容師に収入の話を聞くと「手取りの月給は18万円前後です」という答えが多い。その美容師の仲間のような印象があるのが理容師、つまり散髪屋だ。

筆者はよく安い理髪店で散髪をする。10分ほどで終わる1000円(税別)の店。技術者が数人で次々と客の髪を切っていく。この仕事も安月給で大変なのだろうなぁと思ったら、一概にそうは言えないらしい。

あるとき1000円の店のAさんという理容師と話していると、同じグループで繁忙店に勤務している男性理容師の話題になった。Aさんはこう話してくれた。
「うちの系列でお客さんがたくさん来るお店には月に2、3回しか休みを取らず、それこそ馬車馬のように働いている男性がいます」
「過労死ラインじゃないですか?」
「そうですねぇ。でも目標があるから頑張れるみたいですよ」
「目標って?」
「独立です」
「理髪店を開くということ」
「そうです」

なるほど。自分の店を持つのはあらゆる業種の技術者や職人の夢だ。多少無理をしてでも開店資金を貯めたいと思うのは当たり前のこと。
だけど料金1000円の店で働いて独立開業なんかできるのだろうか。

そう質問をすると、Aさんは、
「それが大丈夫なんですよぉ」
と言う。
「その男性はなんと月給50万円です。ほとんど休みなしで朝から晩まで働けば、それくらいの収入になるんです」
「へぇ~」
「おまけに彼の奥さんは美容師さんです」
「ということは……?」
「奥さんの収入で生活し、彼の月給を貯金すればいいのです」
「毎月50万円ずつ貯金?」
「おそらく奥さんは安月給なので50万円をそっくり貯めるのは無理でしょう。でも30万円ずつなら可能なはず。月に30万円として年に360万円を貯金。2年間頑張れば720万円。720万円あればもともとある理髪店を居抜きで借りて開業できますよ」
「なるほどねぇ」

以前、ラーメン評論家に「ラーメン屋は資金がいくらあったら開業できるの?」と聞いたら、「店を居抜きで借りる場合なら、最少で300万円あれば開業できる」と教えられた。美容院にも同じような理屈が通用するらしい。

ちなみにAさんが勤務する店の給与体系は日給プラス担当した客の数による歩合給。忙しい日は1日に100人が来店。理容師2人が働き、指名料やデザインカット料を入れて10万円以上の売り上げになる。歩合の比率がいくらかは知らないが、そこそこの給料になる計算だ。実際、例の男性は同じ給与体系で、多い日は1日の給料が2万円を超えるという。だから月給50万円なのだ。歩合給だからこそ、目標に向かって頑張れるというわけだ。

「まあ、開業するなら、宣伝費などを想定して1000万円貯めるのがいいでしょう。その場合は3年間きっちり働く。若いときしかできませんけどね」
とAさん。

ふ~ん。失礼ながら料金が1000円の安い店の人は上がり目がないと思っていたけど、実は努力と忍耐の先に輝かしい未来が待っているわけだ。まさに逆転の発想。世の中は意外な理論が成立するものだ。Aさんの話を聞いて、筆者は思い込みの盲点を突かれたのだった。

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