まるで蛇女 怖くて直視できなかった岡本夏生の「黒くただれた」すっぴん顔
東映Vシネマ「女囚さそり 殺人予告」(91年)

「岡本は写真撮影にこだわる」とマネージャーの言葉が実態を暗示

グラビア誌の編集をしていた1991年のこと、当時売れっ子だったタレント岡本夏生(現在57歳)の事務所から「取材して欲しい」との申し入れを受けた。主演を務めた東映Vシネマの最新作「女囚さそり 殺人予告」(池田敏春監督)の宣伝を兼ねて記事にしてくれとの要請だ。ちょうど女性タレントに恋愛観について聞く企画があったのでそのテーマでインタビューを設定した。

ただ事前に変だなと思えるやり取りがあった。筆者が「カメラマンを手配します」と連絡すると、岡本のマネージャーから、
「いつも頼んでいるヘアメイクアーチストを雇えないか?」
と打診された。

「掲載はモノクロページで、使う写真も1枚きりなので、みなさんに自前のメイクをお願いしています」
と説明すると、
「では撮影をなしにして、岡本の写真は『女囚さそり』のスチールを使って欲しい」
という。

理由を聞くと、
「岡本本人が写真撮影にこだわる性格だから、ヘアメイクがつかないと難しい」
との答え。話の節々で先方は「岡本はメイクにこだわるから」という言葉を繰り返した。要するに、
「お抱えのヘアメイクを雇ってくれ。それができないならスチール写真で間に合わせて欲しい」
というわけだ。

筆者としては話が聞ければいいので、「ではスチール写真使用でいいですよ」と応じ、日程が決まった。

「当日はすっぴんで向かわせます」

とのことだった。

一瞬で吹き飛んだ人気タレントのオーラ

取材は1週間後の午後6時に、筆者が勤めていた会社近くの喫茶店の2階で行うことになった。その店は6時からバータイムのため少し照明を落としていた。なんとなくムーディーな雰囲気だ。この状況で恋愛観を聞くのも悪くないと思った。

取材と原稿を担当するライターのA君と待っていると、6時を少し回ったころ、
「いらしたみたいです」
A君が窓の外を指差した。見下ろすと、日没の光景の中をGパンをはいた長身スレンダー体型の女性がクルマから降り、こちらに颯爽と歩いてくる。オーラに包まれているように見え、筆者は「さすがは岡本夏生」と感心した。

ところがその10秒後、オーラが一気に消し飛んだ。
「お待たせしました」
と挨拶して席についた彼女を見て絶句した。すっぴん顔が変なのだ。
まず肌が浅黒い。バータイムのほの暗い照明にあおられて黒さが際立っている。特に両目や唇などの粘膜の周辺が黒ずんでいる。というか、黒くただれて見えるのだ。

さらに目が吊り上がっている。口角も上がっている。目と唇はまるで楳図かずおの漫画に出てくる蛇女みたいだ。

「ぶ、不気味……」
心の中で呟いた。
とはいえ岡本夏生はノリのいいタレントだ。おまけに頭もいい。筆者とA君が次々と繰り出す質問にテキパキと答える。切り返しが速い。それも原稿になりやすい的確なコメントだ。さすがは岡本夏生である。

だがそれでも顔は不気味。というか怖い。やや細面の顔がまだら状に黒ずみ、目尻と口角が上がった蛇女がこちらを見ている。「そんな大袈裟な」と笑われるだろうが、本当だ。筆者は2、3回しか顔を直視できなかった。

やがて予定の1時間が過ぎ、お互いに「ありがとうございました」と頭を下げて取材は終わった。筆者とA君は彼女のクルマが発進するのを見送った。

クルマの影が遠ざかり、A君が言った。
「すごかったですね」
彼も黒色蛇女の迫力に圧倒されたようだ。
「すごいってもんじゃない。凄まじいだよ」
と筆者は応じた。

ちなみに岡本夏生は65年9月生まれ。取材当時はまだ25歳だった。

さすがにここまでひどくはないけど……。

ノースウエストの機内でばったり再会

取材後、筆者は会社に戻り、同僚社員たちに岡本夏生の顔の実態について語った。それまで何百人ものタレントと会っていたが、これほど怪異なものを見たのは初めてだったからだ。

「要するにだ。写真撮影にこだわるというのは、すっぴんだと顔が醜くなってしまうとの意味を含んでいたわけよ」
とみんなに語ったのだった。

ところがそれから数カ月後、思わぬ場所で岡本夏生と遭遇した。その年の9月末、勤めていた会社を辞め、次の会社に移るため10日間の休暇ができた。出不精なので旅行などほとんどしないが、この際だと思って米国のニューヨークとロスを訪ねるパック旅行に参加した。貧乏人の日帰り旅行みたいなものだ。

成田空港でノースウエストの旅客機に乗った。何時間かしたころ、目を上げると5、6㍍離れたところで若い女が歯を磨いている。客席に顔を向けて笑顔で歯ブラシを動かしているその顔はテレビでよく見る岡本夏生ではないか! しっかりメイクをし、「私を見て~!」というように客席に顔をさらしているのだ。

タレント、ことに女性タレントは見られたいという自己顕示欲が強い。それが彼女たちの強みである。岡本夏生はしっかり化粧した容姿をみんなに見て欲しかったのだろう。客席はほぼ満席だから、見られたい願望を存分に満たしたはずだ。

筆者は立ち上がって、
「みなさん、この顔にダマされてはいけない!」
と叫びたかったが、ぐっと我慢した。

というわけで数カ月の間に岡本夏生の使用前と使用後を見ることによって、化粧がもたらす女性の顔の劇的な変化を改めて痛感。1991年は筆者にとって衝撃の年だったのである。

それから数年後、夜中にテレビのバラエティ番組を見ていたら岡本夏生が出ていて、お笑いタレントに「岡本さんは化粧した顔とすっぴんの落差が激しいそうですが」との質問を受けた。岡本は「そんなことはない」と否定し、カメラの前で顔に化粧落とし剤を塗っていたが、筆者が目撃したような顔にはならなかった。

メイクを完全に落とさないようトリックを使ったのか、それともいつぞやの喫茶店と違って明るいスタジオだから顔が良好な状態を保てたのか。今も不思議だなぁと思い返してしまうのだ。

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