占い師はなぜ、他人の未来を言い当てるのか?

電話3分 「ロックで飲んでるでしょ」と言い当てた女流占い師

筆者は「占い」というものを信じない。神でもない人間が他人の運命を言い当てるなんてことが現実に起きると思えないからだ。

占いの効果は迷える人に希望を与えることだろう。「僕は将来音楽家になりたい」という若者に「努力すればなれるというお告げが出ている」と答えれば相手は悪い気はしない。喜色満面で帰れるというものだ。

占い師について、筆者の祖父はいつもこんなことを言っていた。占い師が客に、
「あんたの家には松の木があるね」
と聞く。田舎の家の庭にはたいてい松の木が植わっているものだ。だから客は、
「あります。なぜ分かるんですか?」
と聞く。占い師は勝ち誇ったように、
「私には見えるんです」
「恐れ入りました」
これで信じてしまうのだ。

だが、まれにアパート暮らしの客が「うちには松の木はありません」と否定することがある。そのとき占い師は、
「なくて良かった。あったら大変なことになっていた」

と言って客を安心させる。幸運に結びつく言葉を聞いて客は満足し、疑問に思わない。

手品の手法に「マジシャンズ・チョイス」というのがある。術者がレモンを右手と左手にひとつずつ持ち、客に「どちらかを指差してください」と指示する。右手のレモンにタネを仕込んでいる場合、客が右手をさしたら「ではこれをあなたに預けます」と言って相手に渡し、中から意外な物が出てきて客がビックリするという寸法だ。

客が左手を指差したときは「ではこれは私がもらいましょう」と言って自分の前に置き、右手のレモンを客に渡す。どちらにせよ、客にはタネを仕込んだレモンが渡る仕掛けだが、相手は「どちらかを指差してください」と言われたため、自分が選んだものと錯覚してしまうのだ。占い師の論法はこれと変わらない。

占い師を相手に不思議な経験をしたことがある。26歳のとき、ある事務所で電話番をしていたら、事務所の代表者と親しい女性占い師から電話がかかってきた。代表者が不在だったため、その占い師と少し世間話をした。

2、3分したところで、彼女は「あなた、お酒の飲み過ぎよ。それも毎晩ロックで飲んでるでしょ。体に悪いわよ」と笑った。筆者はビックリした。そのころは毎晩、自室でウイスキーをロックで飲んでいたからだ。
「なぜ分かるんですか?」
「私は占い師よ。分かるに決まってるでしょ。おっほっほっ~」
超常現象を信じない筆者はキツネにつままれた気分だった。

占い師はバカではできない

だが数日後、カラクリが思い当たった。おそらく彼女には人の声の微妙な特徴を見極める能力があるのだろう。毎晩ウイスキーを飲めば喉が荒れる。水割りでなく、ロックだとなおさらだ。彼女は長年の経験から、毎晩ロックで酒を飲む人間の声を覚えていて、筆者の飲み方を言い当てた。こう考えるのが現実的だ。

占い師はバカではできない。客の表情や声の微妙な変化を察知し、相手がどんな言葉を待っているかを一瞬で判断する特殊技能がないとできない仕事なのだ。
「あなたには明るい未来が待ち受けている」
と言って客を喜ばせ、すかさず、
「だけど女難の相が出ている」
などとマイナスの予言でちくりと脅す。女性関係に悩んでいる客は、
「え、やっぱり……」
と納得するし、悩みのない男は、
「そういえば昨年、恋人にフラれた」
と過去の記憶をたぐり寄せて占いのお告げとの整合性を構築する。

つまり客が勝手に占い師の言葉を正当化してくれるのだ。だから自分のことをあれこれ考えている人や頭のいい人ほど、占いを信じてしまう。その上で、占い師は客の性格を読み、どんな長所を持っているのかとか、どんな短所があるのかを見極める。相手の可能性と危険性を知った上で助言を与える。人によっては占い師の言ったとおり努力して成功する。本当は自分が頑張ったから成功したのに、占い師のおかげだと思い込んでしまう人もいる。

こうして、
「あの占い師の先生のお告げのおかげだ」
という信者が一丁上がりとなるわけだ。まさに信じる者は救われるのである。

1999年ごろ、動物占いがブームになった。生年月日から自分の性格を動物にたとえた占い法。本が大ヒットした。
この種の本を読むと占いがよく分かる。
「あなたは社交的な性格で、友達が多い」
と言いつつ、
「だけど寂しがり屋なところがあり、友達と疎遠になると不安を感じてしまう」
など誰にでも当てはまりそうな言葉で信じ込ませる。「俺はなぜこんな性格なんだ?」と悩んでいる人ほど「確かにそうだ」と引き込まれる。

そのため性格を言い当てる解説が長い。長い文章にさまざまな要素をちりばめている。読者はその中にひとつでも自分に適合する文言があると、「そのとおりだ」と大きく頷いてしまうのだ。

筆者はいつも過度の占い信奉者に会うとこうした話をするが、彼らは統一教会の信者のようにかたくなに占いを信じ、筆者をサタンのように異端視する。とくに女性を理性的にするのは難しい。というか不可能である。

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