若い組員の“報復”が怖い 今どきの暴力団が「暴力反対」を唱える裏事情

ホステスに唾を吐きかけただけで懲役3年

20年前、歌舞伎町のクラブのマスターから「うちの店で一番紳士的に飲んでる人の業種が何か分かりますか?」と聞かれた。どんな仕事の客がホステスの女の子たちに優しいかというのだ。マスターの答えは……。
「実は建設関係なんです。建設は男の仕事だから、普段あまり女性に接していない。だから女性に優しいんです」

建設というとつるはしを握って土を掘り返している肉体労働者のイメージがあるが、彼らだけではない。ネクタイを締めたゼネコンの営業マンも紳士的で、女性にセクハラ的な言動をしないそうだ。

ところが近年は世相が変わった。昨年のこと、キャバクラの女性と話していたら、
「いま一番おとなしくお酒を飲んでるのは稼業の人ですよ」
と言われた。「稼業」は飲食業界で使われる隠語で、ヤクザを表す。

  1. なぜなのか。
    彼女の説明はこうだ。
    「暴対法などで警察の締めつけが厳しいからですよ。警察はヤクザを一人でも多く捕まえたい。だからお店で女の子に唾を吐きかけただけで逮捕し、懲役3年と言われてます。平手打ちしたら6年ですよ」

ヤクザ、つまり暴力団の世界は人手と後継者の不足に悩んでいる。実際、構成員の数は減る一方だ。警察庁のデータによると、全国の暴力団の構成員は1991年の9万1000人をピークに年々減少し、2021年末時点は前年比1800人減の2万4100人である。30年間で約74%も減った計算になる。

ヤクザ世界に詳しいジャーナリストのK氏に聞いたら、
「トラブルを予防するためには飲み歩かないのが一番。だからどこの組も若い組員にキャバクラやクラブにあまり出入りしないよう指導しています」
と教えてくれた。

ただでさえ人材不足の時代にたかが唾吐きくらいで刑務所に入ったら、親分に申し訳ない。だから品行方正に酒を飲む。あるいは盛り場に足を向けず家飲みを楽しむ。それが最近のヤクザのライフスタイルなのだそうだ。そういえば歌舞伎町などでヤクザを見かけることが少なくなった気がする。

K氏によると今の親分や幹部は若い組員の"報復"を恐れているそうだ。高校を出て組員として働き始めながら、ビンタを一発受けただけで嫌気がさし、翌日から来なくなることもある。

あるいは殴られた若者が頭にきて警察に駆け込み、「〇〇組で暴力を受けた」と通報することも。そうなったら警察は待ってましたとばかりに摘発に乗り出し、殴った組員は逮捕。これで若者を含めて2人がいなくなるわけだ。何度もいうが人手不足の折に一挙に2人を失うのはまことに手痛い。

高校球児の暴力のニュースに「あんな野蛮のことはするな」

そうした状況だから、最近の親分たちは幹部に「若い者をかわいがってやれ」と命じている。相撲の「かわいがり」ではなく、本当に愛情を込めて育成するという意味だ。

「若い者がヘマをしても『いいよいいよ』と許す。おいしいものを食べたいと言えば外食に連れていく。ソフトな言葉遣いで丁寧に仕事を教え、絶対に手を上げない。それが昨今のヤクザのルールです。ある親分はテレビニュースでPL学園野球部の暴力行為が報じられた際に『あんな野蛮なことはするなよ。暴力は絶対にダメだ』と幹部クラスに釘をさしたといいます」(K氏)

今や暴力団が「暴力反対」を唱えているわけだ。これぞ究極の逆転の発想である。

考えてみると子供のお手本たるべき政治家も同じ。杉田水脈はツイッターで伊藤詩織さんをおとしめたため高裁判決で55万円の賠償を命じられながら、SNSの誹謗中傷対策キャンペーンを行っている総務省の政務官に抜擢された。大臣、副大臣に次ぐナンバー3のポストである。

ヤクザも自民党の政治家も、われわれ堅気の衆が大笑いしたくなるほどの逆転劇を披露してくれる。岸田文雄首相は大したお笑いライターですなぁ。

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