芸能界の悲劇 恋人を人気お笑いタレントKに奪われた純情男

Kに棄てられながら、彼女はしたたかに次の手を打っていた

 筆者の友人に有名芸能プロに勤務していたA君がいる。A君といってももう60代半ば。いい年したオッサンだ。
先日彼と久しぶりに電話で話した。その際、長年の疑問をぶつけてみた。
彼は今から30年前、怜子(仮名)という3歳年下のモデルと交際していた。筆者はその女性に会ったことはないが、A君によると「スタイル抜群の長身美女」で、大手のオスカープロモーションに所属しているという。A君はいつも「怜子と結婚したい」と言っていた。彼はオシャレで知性的な雰囲気の真面目人間。大卒だ。筆者は彼の願いが叶って結婚するものと思っていた。
だがA君はまもなく10歳年下のOLと結婚した。筆者も披露宴に出たので覚えているが、新妻はアイドルタレントなみの美女だった。結局、3歳年下のモデルを棄てて10歳下のカワイ子ちゃんを選んだのだなと思った。
ところが先日の電話で事実は小説よりもエゴイストだと知った。
A君いわく。
「現在の妻よりも怜子が好きだった。だけどフラれた。これが真相だよ」
話によると、怜子は品川区の商店の娘で、A君はよく外車のマイカーでドライブするため、彼女の実家に迎えに行っていた。結婚を前提に考えていたため怜子の母親とは顔馴染みだった。
ある日いつものように迎えに行ったら、母親が出てきて、
「あれ、今日はAさんと約束があったんですか。娘は何も言わずに出かけて行きました」
と恐縮している。
つまりA君はデートをすっぽかされたわけだ。彼の胸に一抹の不安がよぎった。数日後それが現実化した。
「話したいことがあるの」
怜子から電話を受けて彼は喫茶店で会った。怜子はこんな告白をした。
「前から言おうと思ってたけど言い出せなかった。実はあなたのほかにKさんともつき合ってるの」
Kは人気絶頂のお笑いコンビの一人だ。彼女はA君ではなく、Kと結婚したいという。こういう場合、男の多くは諦める。なぜなら女と違って男はライバルとの格差を明確に認識するからだ。
A君はこう説明する。
「どんなに頑張ってもKに太刀打ちはできない。財力でも知名度でもブランド力でも。だからあっさり諦めた」
諦めたとはいえ、やはり未練が残った。彼は怜子のことを考えて過ごした。
半年後、怜子から電話が入った。当時はスマホはなく、ガラケーにだ。
「話があるの」
怜子の呼び出しにA君はいそいそと出かけて行った。胸には期待がみなぎっている。その期待どおりとなった。
「実はKさんと別れた」
と怜子は言う。
事情を聞いたところ、彼女ははっきりとは言わないが、どうやらKにフラれたようだ。考えてみると、2人が別れてからKには人気女優とのロマンスが浮上していた。怜子は女優までのつなぎだったようだ。
ただ、怜子は「また私とつき合って欲しい」などと殊勝なことは言わない。謝罪の言葉もない。だがA君とヨリを戻したいという意向が言葉ににじんでいる。A君は誰よりも怜子が好きで堪らないから拒絶するはずがない。喜んで彼女を受け入れた。2人はまた恋愛関係になった。と、A君は思っていた。
ところが3か月後、
「話があるの」
とまた喫茶店を呼び出された。怜子は言った。
「実は私、今度結婚するの。だから……」
A君は最後まで聞く必要もないと思い、彼女の告白をさえぎった。彼は穏やかな性格だ。怜子の裏切りを問い詰めることなく、しばらくの間、昔話を楽しんだ。
それから間もなくして怜子から「結婚しました」という手紙が届いた。友人たちに送った一斉通知のハガキの一枚だ。彼女は東京23区内の開業医と結婚したという。A君は「お近くにいらした際はぜひお立ち寄りください」という活字の文言を虚しく見つめた。
「怜子と結婚したかったけど、逃げられた。だから今のカミさんと結婚した。それだけだよ」
と彼は言う。噂では、怜子はリッチな院長夫人として病院に君臨しているそうだ。お金持ちになれてよかったね!

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