母親の成績で名門女子大に「裏口入学」した都市伝説のような本当の話

32年前は明大受験でなべやかんの「替え玉」発覚

街を歩いていると袴をはいた女の子たちを見かける。今年も大学の卒業式シーズンだなと実感するのだ。4月に入ったらあちこちの大学で入学式が行われるはずだ。

入学といえば今年は替え玉受験やスマホを使った不正受験のニュースを聞いていない。ズルをしてでも志望校に入りたいと願っている受験生や、受験で儲けようと企んでいる連中は次なる奇策を模索しているのかもしれない。

そういえば32年前の1991年、なべおさみの息子が明治大学の二部入試で替え玉受験を行ったことが発覚した。「大物コメディアンの息子 不祥事が発覚」とワイドショーなどで大いに騒がれたものだ。その後息子は芸能界に進み、なべやかん(52)となった。彼の芸名は父親の「なべ」と夜間部に入れなかったという意味の「やかん」を合体させたものだ。

昔から「コネがあればバカでも一流大学に入れる」という話がある。政治家のコネを使って潜り込むとか、大金を寄付したら裏口入学させてくれるといった話で、今から何十年も前はそれが当たり前だった。

つまり親が大物とコネのある受験生は有利という話が常識化し、コネやお金のない人はそうした現実に対して怒ることもなかった。ある意味で、世間が「それもやむなし」と諦めていた部分もあったようだ。

数年前、ある女性から、
「実を言うと、私は裏口入学で大学に入った」
という打ち明け話を聞いた。大金を支払ったのかと思ったらさにあらず。「裏口入学」は彼女の母親の「遺産」なのだという。

こんな話だった。彼女(A子と呼ぼう)は現在34歳。15年ほど前に高校を卒業して現役で四年制の名門女子大学に入学した。A子によれば「私は勉強ができないので、とてもじゃないけど合格は無理だった」と言う。

それでも入学試験に合格した。推薦入試ではなく、ちゃんと試験問題を解いての合格だった。入ったのは就職率が良いことで有名なお嬢さま大学だ。

「生涯で1人だけ入学させてあげる」

なぜ合格できたのか。A子は「実は私の母がこの大学の卒業生なんです」とこう話してくれた。
「母は勉強が好きで、特に語学の才能があった。入学試験の成績はトップで卒業のときは首席。大学院に進むよう教授陣から勧められていたんです」

大学側はこのまま就職するのはもったいないと思って引き留めたが、母は就職を選んだ。その際、大学のお偉いさんに呼ばれてこう言われた。
「この先、あなたの家族や知人が大学の行き場がなかったら、相談しにきて欲しい。受験さえすれば合格させるから。ただし、生涯に1人だけだよ」
彼女は卒業後、この約束を覚えていた。

それから結婚し、娘のA子が生まれた。A子は勉強嫌い。母の母校を受けたいと思ったが、箸にも棒にもかからない成績だった。

そこで母校に出向き、事務局の人に昔の約束の話をした。卒業から20年以上が経過しているため、約束をしてくれたお偉いさんはすでにリタイアしていた。だが、学校側は彼女への約束を毎年申し送りしていた。

そのため、
「誰を入学させたいの?」
「実は娘を……」
「分かりました」
こんなやり取りでA子の合格が決まり、彼女は形ばかりの受験をして無事に入学。しっかり卒業して公立学校の教員になった。

「母が優等生でなかったら、私は名の知れた大学に入れていない。それくらい成績が悪かったんだから」
A子は舌をペロリと出し、「だから裏口入学なのよ」と苦笑いした。

善人や正直者が神様に認められ、「1つだけ願いを叶えてやろう」と告げられる話は寓話によくある。A子とその母の体験はそれに似ている。

彼女は高校までは劣等生だったが、大学で母親譲りの語学の才能を開花させた。繰り返すが、卒業後は教員になった。

なんだか都市伝説めいているが、本当の話である。

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