真面目人間がギャグを演じるからよけい面白い
「もしかして認知症だった?」――仲本工事(81)の事故死を聞いてこう思った。あの運動神経でも事故を避けられなかったのかという気持ちからだ。
仲本は18日午前9時ごろ、横浜市西区の交差点を歩いて横断中、73歳の男性が運転するクルマにはねられた。神奈川県内の病院に運ばれ開頭手術を受けたが、19日午後10時22分、急性硬膜下血腫で死亡した。自宅は東京・目黒区にあり、事故現場から80㍍ほどの距離に妻で歌手の純歌(54)が経営するカレー店があったという。
筆者が認知症かと思ったのは子供のころ、ザ・ドリフターズの「8時だョ!全員集合」(TBS)で仲本の華麗な体操のワザを見ていたからだ。年は取ったが、いまも「運動神経抜群の体操のお兄さん」のイメージが強く残っている。そんなタフな男が走ってくるクルマをよけきれなかったとは思えない。だから最初に「もしかして認知症?」がひらめいたのだ。
仲本は1941年、東京生まれ。中学・高校時代は体操選手として活躍し、高校時代に東京都の新人戦でゆか種目2位、個人総合4位に輝いている。高卒後は学習院大学に進み、ミュージシャンを目指していたが、高木ブーに誘われて65年にドリフに参加。69年にスタートした「全員集合」では紳士的であまり目立たないキャラを演じ、体操選手のユニフォームを着てバク転や側転を披露することもあった。
仲本を考えると、ドリフが売れっ子になった理由が分かるような気がする。メンバーが多彩なのだ。
ゴリラみたいな顔のいかりや長介、お茶目な加藤茶、名前のとおりの体型の高木ブー、「なんだ馬鹿野郎」を連発するコワモテの荒井注、破天荒な志村けん。彼らの中にあって、黒縁メガネをかけた仲本はスポーツマンらしい実直なキャラを通した。
「全員集合」で養豚場を舞台にしたコントがあった。仲本は豚小屋で働くというのに、スーツとネクタイ姿で登場。「何だその格好は?」と聞くいかりやに「豚の皆さんに失礼のないよう、正装してきました」と答えて笑いを取っていた。仲本らしいなぁと思った。ハチャメチャな仲間たちに囲まれて、理知的なお笑いキャラを通していたからだ。コメディアンより、高校の体育の先生のほうが似合っているような気さえしたものだ。
若き志村けんがいかりやと衝突したとき、仲本が2人の間に入ってなだめたという話もある。彼は争いを嫌い、後発の志村けんの活躍に嫉妬するどころか彼を支え、泰然と芸能生活を送った。その姿は「流水不争先(流水は先を争わず)」と言っていい。
極論すれば、仲本はドリフの中でただ一人の知性的な常識人であり、ドリフの良心だった。暴れまくる面々の輪の中でグループが無謀な集団とならないよう絶妙なバランスを取っていた。それがドリフの安定感につながり、一種の"清潔感"をもたらした。
昨日の「ミヤネ屋」(日本テレビ)であるコメンテーターが「志村さんか加藤さんのファンが多い中で、仲本ファンてどちかというとマニアック系で、それはそれでやはり面白かった」と言い、宮根誠司が「優しいんですよね」と応じていたが、そのとおりだ。筆者は誰のファンということもなかったが、仲本がしゃべる場面が好きだった。彼がギャグをかますと、他のメンバーより面白さが増幅された。
コメディーの世界ではこんな言葉がある。
「ルンペンがバナナの皮ですべってもおかしくないが、大統領が転ぶと面白い」
真面目人間の仲本がギャグを演じるから、よけい面白かったと言いたいのだ。