「職場の花」「インディアンうそつかない」「バーテン」もダメ
「ホンマかいな?」と疑ったが、本当のようだ。「将棋倒し」という言葉に日本将棋連盟がノーを突きつけたといわれる問題である。
10月29日に韓国のソウルで起きた雑踏事故。この事故の報道と同時に、ネット上で「将棋倒しは放送禁止用語」という書き込みが見られるようになった。筆者は将棋倒しのような昔からある言葉が今さら禁止になるはずはないと思っていたが、ウィキペディアによるとアクションが起きたのは事実だという。
2001年7月に兵庫県明石市で花火大会の見物人11人が死亡した際、将棋連盟が報道機関に「将棋倒し」の表現は「誠に不適切な使い方である」として、事故などの報道で使用しないよう要望書を出したと書かれている。
そういえば今回の事故で日本のメディアはしきりと「群衆雪崩」という言葉を使っていた。韓国の一般市民は取材で「ドミノ倒し」という言葉も使用。筆者は現地の日本人が「将棋倒し」としゃべるのを聞いた。いずれにせよ「将棋倒し」がタブー視されたのは事実のようだ。
ただ、共同通信社の記者ハンドブック13版の「差別語、不快用語」の欄に「将棋倒し」はない。正式に不快用語に分類されたわけではないようだ。
このように知らないうちに使用を見合わせ、別の言葉に言い換えるよう誘導されている用語は少なくない。筆者にとって印象的なのが「処女作品」「処女小説」「処女航海」など「処女」の文字がつく言葉。記者ハンドブックでは「女性を殊更に強調、特別扱いする不適切表現」の部類に入っている。
そこにはないが「処女作」など女性特有のデリケートな表現を使うことには、筆者も以前から変だなぁと思い、「男なら童貞作かい?」と冗談を言ったりしたものだ。もう10年以上前から、テレビや新聞でこうした言葉を見聞きした覚えがない。
ついでに書くと「女傑」「女丈夫」「男勝り」「女だてらに」「職場の花」「才媛」「才女」「才色兼備」も不適切表現なのだそうだ。
昔の児童書などには「酋長」や「土人」という言葉が登場したが、かれこれ30年以上も前に姿を消した。記者ハンドブックは「酋長」は「首長」「集落の長」に、「土人」は「先住民(族)」「現地人」に直すよう指摘している。
ただ「インディアン」は使っていいのだそうだ。とはいえ「『インディアンうそつかない』など比喩的な表現は避ける」とある。いろいろと面倒だ。
ビジネス分野では「企業戦士」は「猛烈社員」に言い換える。「女給」は「ウエートレス」「(バー)従業員」「ホステス」など。女中は「お手伝いさん」である。
そういえば、昔は神経を病む病気を「精神病」と呼んでいたが、これは差別用語となったのか、現在では「精神疾患」「心の病」と言い換えることが多い。「外人」は「外国人」だ。かつてプロ野球で外国人選手がチームの足を引っ張ると「害人」というタイトルが踊ることがあったが、今では見かけない。
面白いのは「バーテン」。記者ハンドブックは「特定の職業(職種)を見下したような表現は使わない」との理由で、「バーテンダー」に直すべきだとしている。
少し前に歌舞伎町のバーで飲んでいるとき、店のマスターに「今度バーテンの連載をやるので、面白いネタがあったら教えて」と頼んだら、
「ゲロゲロ~。バーテンという言葉はやめて。バーテンダーと呼んで欲しいなぁ。バーテンと言われるとバカにされてるみたいだから。ゲロゲロ~!」
とおこられた。彼は正式にバーテンダーの勉強をし、「日本バーテンダー協会」にも所属している。言葉を縮めるのは蔑称になるわけだ。
たしかに言葉を縮めた表現には侮蔑の響きがある。右翼主義者は中国を「中共」と呼び、日本共産党を「日共」と呼ぶ。筆者の知り合いの自衛隊幹部は挨拶状の手書きメッセージで北朝鮮を「北鮮」と記していた。これらはさしもの産経新聞でも書けないだろう。いや、敵意を込めて書くかな?