テレビ10本とCMがすべてパアに!
ベッキー(38)の不倫騒動が持ち上がったのは2016年の正月だった。まもなく7年になる。〝スキャンダル処女〟と言われたタレントだけに、騒ぎは世間の耳目を集めた。
この一件は芸能プロの「危機管理」の未熟さを世間に見せつけたと筆者は考えている。
ベッキーの不倫相手はロックバンド「ゲスの極み乙女。」の川谷絵音(34)。実は妻帯者だった。つまりベッキーは単なる熱愛発覚ではなく、不倫の愛憎劇を起こしたことになる。
週刊文春の記事で事態が発覚するや、ベッキーは1月7日に単独で会見を開いた。まずは所属事務所サンミュージックの関係者が「この度は大変、ファンの皆さま、そして関係者にご心配、ご迷惑をおかけして誠に申し訳ございません」と謝罪。
続いてベッキーも口を開き、長崎にある川谷の実家に行ったことなど文春の報道を一部認めたが、「友人関係であることは間違いありません」と交際については否定した。
この会見は記者の質問がNGだった。取材陣との質疑応答はなく、ベッキーが約4分30秒に渡ってしゃべるだけの一方的な否定会見となった。ただし前述したように、ベッキーは川谷の実家を訪ねたことは認めた。不倫密会より一段深い関係だったのである。
事態はこれで収まらなかった。2月2日発売の「週刊文春」によってベッキーと川谷がLINEで交わした「センテンススプリング」「ありがとう文春!」などの新たなやり取りが発覚。そこには週刊文春への皮肉が込められていた。
騒動は泥沼化した。ベッキーはレギュラーのテレビ全10番組とラジオ1番組を休演し、契約中のCMも全てが降板もしくは打ち切りとなった。悲劇的な結末である。
2月5日、サンミュージックはベッキーが1月30日をもって当面の間休業することを正式に発表した。ベッキーは息の根を止められたことになる。清涼なイメージで若者から高齢者にまで幅広いファンに支えられた彼女は、一気に人気が下降した。まるでドラマのような売れっ子の没落である。
これに焦ったのか、ベッキーはいつしか川谷と別れ、19年1月に元プロ野球選手でプロ野球指導者の片岡治大(39)と結婚した。だが、今もかつての勢いは見られない。
一度ダーク色に染まった有名人を、日本人は容易に許さない傾向がある。そこには「穢れと清め」に裏打ちされた民族哲学があるのかもしれない。
また、川谷のバンド名「ゲスの極み乙女。」もイメージが劣悪だ。「春日八郎」みたいな堅実な名前だったら……と思ってしまう。
この騒動が持ち上がったとき、筆者は勤務先のニュース解説で、ベッキーが所属するサンミュージックが対応の判断を間違えたと話した。文春の記事は内容が具体的だった。「やってません」でしらを切り通せるほど甘いものではない。おまけにベッキーら当事者は悪乗りのLINEを交わし、動かぬ証拠を突きつけられた。
なのにサンミュージックは不倫関係の否定で騒動を乗り切ろうとした。これは昔から芸能プロが常套手段とするごまかし作戦だが、今の時代には通用しない。
取るべき手段は「正直は最善の策」だったと筆者は思う。
松田聖子が抜けたサンミュージックにあって、ベッキーが稼ぎ頭となり、フルに働いていることは芸能関係者のみならず一般のファンや視聴者も知っていた。
あくまでも噂話だが、同事務所は90年代に資金繰りに困り、銀行との折衝の際に川中美幸の公演スケジュールを見せて融資を要請したという話もあった。そんな時期に登場し、昼夜兼行で働くベッキーは希望の星だった。
つまり、当時31歳のベッキーは恋愛をする暇もないほど忙しかった。文句も言わず、事務所のためにそれこそ馬車馬のように働いていたのだ。
彼女はなぜ泣かなかったのか?
だから、と筆者は思う。ベッキーはあの会見で不倫の事実を認め、泣けばよかったのだ、と。
「奥さまには申し訳ない気持ちでいっぱいです。でも好きだという気持ちを抑えきれなかったんです」
こう謝罪して涙を流せば、世間の受け止め方は違ったはずだ。
こんなことを言うと「女性差別だ」と非難されるだろうが、芸能界の現象、ことにスキャンダルの処理では涙は大きな武器となる。世間の同情を喚起できるからだ。
その昔、羽賀研二は梅宮アンナとの熱愛発覚会見の際、頬を伝わる涙を拭いもせず、日ごろ見せない真面目な表情で釈明した。あれは羽賀が、浪花節に弱い日本人のメンタリティーを知っていたからだ。ましてやベッキーは女性なのである。
彼女はお茶の間の好感度が高かった。もしあの会見で、
「私も女だから、人並みに恋をしてみたかった。略奪するつもりはありませんでした。ただ、好きな人に奥さまがいらしたのです。いけないとは思いながらも川谷さんを諦めきれませんでした。奥さま、お許しください」
と頭を下げれば、日本人の多くが同情し、以前より多くの支持が集まっただろう。彼女に好意的なメディアが「ベッキーは青春を犠牲にしてサンミュージックに貢献した」と報じて援護射撃した可能性もある。
仮に支持の輪が広がらなくても、人気の壊滅的な急降下を食い止めることはできたはずだ。要するに、大衆の心理のツボを刺激すればよかったのだ。
例のニュース解説で筆者がこのように解説すると、20代の女性司会者は「私も結婚しているのでベッキーさんを簡単に許すことはできないけど」と前置きしつつ、
「言われてみるとそのとおりという気がします。ベッキーさんがきちんとお詫びをすれば同情したくなるということです」
と納得していた。
芸能事務所の仕事はスキャンダルを頭ごなしに否定してごまかすことではない。直面したピンチをいかにしてチャンスに転換させるか。そうしたプラス思考がこれからのマネジメント業務では重要になるだろう。小手先のテクが通用する時代が終わったことを、ベッキーの失敗は世間に見せつけたのである。
サンミュージックはスキャンダルの処理法を誤って、ベッキーの商品価値を奈落に沈めた。金の卵を順調に生み落としてくれる逸材を破壊してしまったのだ。
他人事ながらもったいないことをしたと言わざるをえない。