「おまえら何やってんだ!」 猟銃を構えて記者を脅した松方弘樹の気弱な性格
松方弘樹の主演映画「実録外伝 大阪電撃作戦」(1976年 東映)

山崎ハコ、中島みゆき、竹中直人などタレントは2の顔を持つ

芸能人を見ると、人間には表の顔と裏の顔があることを痛感させられる。その昔、歌手の山崎ハコ(65)はデビューアルバム「飛・び・ま・す」(1975年)の雰囲気から根暗なイメージをかもし出していたが、実際は明るく気さくな性格で、記者の質問にはきはきと答えてくれることで知られる。筆者も取材のときに、そのギャップに驚かされた。

初期の作品に失恋の曲が多く、女の恨み節や都会の孤独を歌う印象の強かった中島みゆきもよく笑う。1980年前後だったか、ラジオ出演したとき「躁病じゃないか」と思えるほどケタケタ笑っていたのを覚えている。

中島たは2002年にNHK紅白歌合戦に出場し、黒部ダムで「地上の星」を歌った。このときは、NHKホールに呼んだら司会者とのやり取りでペチャクチャしゃべり、大笑いして「プロジェクトⅩ」の番組イメージを損なうかもしれないと危惧し、主催側があえて遠隔地からのライブに変更したともいわれた。陽性キャラで暴走するのを恐れたわけだ。

芸能人にはテレビや映画ではひょうきんな顔を見せるが、普段は物静かな人も少なくない。その代表が渥美清(故人)といわれる。

また、筆者は過去に何度か竹中直人(66)をインタビューしたが、彼もまた言葉をしっかり選んで朴訥と答える生真面目なインテリタイプだ。面と向かうと、はにかみ屋の印象を受ける。

ヤクザ専門俳優・松方の素顔が気になっていた

いろんなタレントがいる中で筆者が不思議だなと思ったのが俳優の松方弘樹(17年に74歳で死去)だ。70~80年代の東映・ヤクザ映画で大活躍したことはご存知のとおり。

あまりにも極道がはまり役だったため、74年にNHK大河ドラマ「勝海舟」で主演の渡哲也が病気降板したときはすったもんだが起きた。後任として松方の起用が決まったのだが、視聴者から「ヤクザ役の俳優が大河ドラマの主演とはいかがなものか」との声が上がったのだ。実は当時高校生だった筆者も松方というと「ヤクザ役者だな」と思っていたから、違和感を覚えた。

その松方が意外な一面を披露したのがバラエティ番組「天才・たけしの元気が出るテレビ!!」(日本テレビ、85年~)だった。松方は毎回スタジオ出演し、ビートたけしのジョークに爆笑。笑いすぎるため、いつも片手に持ったハンカチで目の涙を拭っていた。「あれ、強面のヤクザじゃなかったの?」と拍子抜けしたほどだ。

映画どおりの凶暴な男なのか、それとも実は気弱な性格なのか。筆者は松方の本質について考えていた。その答えらしきものに出会ったのが、20年ほど前、記者のAさんから聞いた話だった。

Aさんは80年代の終わりごろ、京都にある松方の豪邸に張り込んだことがある。松方は79年に結婚した妻の仁科亜季子(69)と同居していた。仁科は岩井半四郎の娘で、親の制止を振り切る形で家を飛び出し、松方と同居。そのあげく結婚して芸能マスコミを騒がせたものだ。

Aさんは女性週刊誌の契約記者で、松方と仁科が円満に暮らしているかを確かめるとともに、仁科が家から出てきたら直撃取材をしてコメントを取ろうと考えた。

とはいえ、松方の屋敷は周辺にクルマを止められる場所がない。そこで家の裏手の竹林のあたりにカメラマンと2人で立ったまま張り込みを続けた。

しばらくして裏戸が開いた。Aさんは仁科が出てきたらすぐに駆け寄ろうと身構えた。ところが……。

「仁科亜紀子ではなく、松方が出てきたんです」
Aさんは先週、改めてこう話してくれた。
「松方からコメントが取れると思ったところが、彼の胸元を見て心臓がドキンとしました。なんと、猟銃を抱えてこちらに近づいてくるではないですか。右手で引き金のあたりを、左手で銃身の中央部を抱え、まるで狩猟の最中のような恰好。正直、殺されると思い、体が震えましたよ」

松方はAさんとカメラマンに近づくや、
「おまえら何やってんだ!」
と恫喝。さすがに銃口をこちらに向けることはなかったが、Aさんは恐怖で鳥肌が立ち、心臓がバクバク。背筋が凍りついたという。

「松方は銃を持った格好で数分間、何かをまくしてた。あまりの恐怖に、彼が何をしゃべったかは覚えていません。東京の編集部に電話したら、『撃たれてケガをしたら大変だ。すぐに戻ってこい』との指示を受けました」

ヤクザ映画のスターが猟銃を抱えて登場とは絵になる情景だが、筆者はこの話を聞いて松方の気弱な一面を思い知った気がした。

銃を持たないと抗議できなかったのか?

芸能人なら誰しもマスコミの張り込み取材を嫌がるものだ。記者やカメラマンに抗議するのは一向にかまわない。だが猟銃のような殺傷能力のある道具を持って詰め寄るのはやりすぎだろう。

当時の芸能マスコミは自分たちの取材活動がタレント側に不快な思いをさせているという罪悪感のような感情があったため、Aさんと編集部は警察に通報しなかったが、もし知らせていたら、松方は銃刀法違反で検挙されたかもしれない。

武器を持たないと抗議ができなかったのは、松方の気の弱さを表しているのではないかと思う。そもそも松方は名優・近衛十四郎の息子、つまりお坊ちゃまだ。社会経験が乏しいため、いざというときに度胸が足りず、手ぶらで抗議できなかったのだろう。

そういえばヤクザ映画が好きなファンの大半は気弱で、上司に逆らえない人が多いと聞く。自分にできないことをスクリーンの無法者どもがやって大暴れする姿を見ることで強くなったように錯覚。満足感にひたるらしい。

筆者が20代のころ勤めた編集プロダクションの社長も同じ。住吉連合(当時)系列の暴力団組長と知り合いであることをしきりに自慢していたが、その本性は生来の気弱な男だった。この社長については面白いエピソードがあるのだが、それはいずれお話ししたい。

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