「宇宙人に連れ去られ、皮を剥がされ食べられる」
今月起きた事件で面白いなと思ったのが「一夫多妻」の生活をし、10代の女性を脅した渋谷博仁容疑者(74)とその元妻・千秋容疑者(43)の逮捕だ。2月7日に捕まった。
渋谷らは昨年12月、10代の女性を「占い」と称して自宅に招き、「あなたは近々死ぬ。宇宙人に連れ去られ、皮を剥がされ食べられる。私と性交するしかない」などと囁いて性的関係を要求。女性が被害を訴え、事態が発覚した。逮捕容疑は準強制性交未遂である。
渋谷にとって千秋は2003年12月5日に籍を入れ、10日後に離婚した9番目の妻とされる。この千秋が勤務先で知り合った被害女性を渋谷に引き合わせた。幸いにも、女性は実際の被害にあわずにすんだという。
渋谷は17年前の2006年にも逮捕されている。当時25歳の女性を「あなたの命はもう1週間しかない。ここに住まないと工場でミンチにされて殺されるよ」と脅し、脅迫などの罪で御用となったのだ。裁判では執行猶予付きの有罪判決を受けた。
当時の渋谷は11人の女性と同居し、裁判官に「同居していた女性たちには全員、実家に帰ってもらう」と約束した。ところがその後も女性に囲まれたハーレム生活を送り、現在の住居である東京・東大和市の自宅では現在の妻と元妻の千秋のほか7人の女性と同居。これに3人の子供と渋谷を含めた13人家族で暮らしていた。
近所の住民は、子供たちがアメリカンスクールのようなお金のかかる学校に通っていることを証言している。相変わらずのハーレム状態なのだ。
彼女たちはなぜ嫉妬しないのか?
1人の男と複数の女というと、ドラマや映画で見かける江戸時代の大奥を思い浮かべてしまう。そこには嫉妬や憎悪があってもおかしくないはずだが、17年前の事件の際、渋谷と同居していた女性たちはメディアの取材で、自分たちに正室や側室のような序列はないとし、「10人姉妹と思っていただければいい。一人ひとりが奥さんではなく、みんなが一つの家族です」と説明していた。
それにしても不思議だ。渋谷は見た目のさえない爺さんなのに、複数の女性に働かせたり身のまわりの世話をさせたりしていた。女性たちはなぜ、こんな男にマインドコントロールされるのか。
2月11日の「ニュースキャスター」(TBS)では精神科医の木村好珠がマインドコントロールについて「ポイントは3つあって、長時間であること。あと外部からの完全な遮断。今回のように宇宙の映像だったりとか、あとお経を聞くとか、そういう単調なことを繰り返すことがポイントになります」としてこう解説していた。
「こうしたつまらないことを繰り返すことで自分の判断力と気力がどんどん乏しくなる。自分が判断できない状態のところに人が言うことで、それが本当なんじゃないかと思い込んでしまうという状態をつくる。それがマインドコントロールです」
なるほど。人間の心理とは不思議なものだ。
そもそも女性が10人近くいて渋谷からご寵愛をいただいていたわけだ。本当に嫉妬や確執はないのだろうか。
実は教祖と信者は「相互依存関係」という驚きの分析
そんな疑問を抱いているとき、長年カルト宗教を取材しているフリーライターのX君から電話をもらったのでいくつか質問してみた。X君は「あくまでも新興宗教の一般論として」との前提で以下のように答えてくれた。
――女性たちは全員が渋谷と深い関係のはずだが、本当に嫉妬はないのか?
「一夫多妻の集団の場合、普通なら女性同士の憎しみが発生しがちだが、渋谷のようなカルト的洗脳を施している場合は、性関係よりも渋谷を信じることに重きが置かれる。そのため性関係は二の次となり、教祖的な立場の男性を崇拝したり信頼することが優先される。だから嫉妬がトーンダウンする」
――女性は占いを信じ込みやすいもの。だから信じてしまうのか?
「占い好きの女性がカモになりやすいことは否定できない。だけど『私は占いや宗教には絶対に引っかからない』と自負している人がカルト教祖の言うことを信じて崇拝してしまうケースは少なくない。たとえば『幸福の科学』の大川隆法。最初は大川の言質を眉唾ものと疑っていた人が、彼が説く『人類はこうだ』とか『宇宙はああだ』という話の一部を正しいと思っているうちに、次第に教義に取り込まれ、信奉してしまうことがある」
――信者が教祖に依存してしまうわけだ。
「というより『相互依存』と考えたほうがいい。信者は教祖を信じることで依存するが、一方の教祖も信者に信じてもらうことで気持ちの平穏を維持する。もし信者が自分を信じてくれないと不安を感じるようになる。つまり教祖も信者に依存する相互依存関係。大川隆法も同じ。自分の言葉を信じる人がいなかったらどうしようと心配していると聞いたことがある」
「サイコパスでないとダメだよ」と言下に否定
筆者は60代で一人暮らしをしている。この際、嘘でも吹聴して女性を集め、ハーレム生活を楽しみたいものだとX君に言ったら、「あんたには無理」と言下に否定されてしまった。
「自分に何かの霊が乗り移っているとか、あなたは宇宙人に食べられると冗談で他人に言うのは簡単だけど、人を信じ込ませるのは至難のわざ。理由は真面目に語りかけなければならないからだ。普通の人は途中で、自分の嘘がばばかばかしくなってプフッと噴き出し笑ってしまうもの。だけどカルト教祖はこうした荒唐無稽な話を何時間もかけて、シリアスな顔で語りかける」
彼らはなぜそれができるのか。
X君は言う。
「理由はサイコパスだからだ。教祖はサイコパスなので、あり得ない話を信じている。妄想を本気で信じているから何時間でも、真顔で嘘話を繰り返すことができる。その表情や語り口によって人を信じ込ませる。普通の神経の人はそこまでできない。途中で理性が復活して気疲れし、『もうやめた』となってしまう。要するにサイコパスな精神構造でないと、カルト宗教の教祖にはなれない」
というわけで筆者は一夫多妻のハーレムを築くことはできないらしい。やはりコツコツと原稿を書き、雀の涙ほどの稿料をもらってカップラーメンをすするしかないのだよ。明日も頑張ろう!