同じワンチャンが行ったり来たりする詐欺な手口
歌舞伎町や六本木には深夜営業のペットショップがある。ワンチャンや猫ちゃんが小型の陳列ケースに入れられ、店の外からも見えるように配置されている。ペットというと家族でかわいがる愛玩動物のイメージが強いが、夜の盛り場でこれ見よがしに売られている。
なぜなのか?
理由は簡単だ。キャバクラのキャストなどが客に買わせるためである。客は美人キャストを口説きたい。そのため「アフター」と称する閉店後の食事に誘う。キャストはおいしいものをたらふく食べつつ「わたし、マンションで一人暮らしだから寂しいの~」と言って客に過剰な期待感を持たせ、店を出るとわざとペットショップの前を通る。そこで陳列ケースの中のワンチャンを見て「あ~ん、かわいい~」と甘い声をあげて近づく。
女の子に好かれたい一心の客は「このワンチャン、飼いたいなぁ」と言われて、買ってあげないとも言えない。そこで1頭20万円もする犬を買い与える。キャストは犬を抱いてタクシーに乗り「今日はご馳走さま。ありがとね~。バイビ~」と言って去っていく。客はクレジットカードの20万円の伝票を持ってむなしく見送るのだ。
問題はここから。
翌日、キャストはペットショップに行き、前夜の犬を返却。20万円の半額の10万円を報酬として受け取る。犬は再び陳列ケースに入れられる。こうして店は10万円の儲け、キャストも10万円の儲け。客はただ飯を食われた上に20万円の損をするわけだ。
後日、客はこのペットショップの前を通りかかり、先日自分が買った犬を見て「ああ、あの日買った犬もこんな犬種だったなあ」と回想にふける。人間には犬の顔の特徴は分からないから、客は目の前の犬があの日自分が買った犬だとは気づかない。こうして彼はとぼとぼと立ち去る。これが世の中の裏側だ。
この原理はやはり盛り場で深夜営業しているぬいぐるみショップの手法を応用している。キャストが「ミッキーのぬいぐるみが欲しい~」とおねだりして買ってもらい、翌日、店に返して半金を受け取る。古典的な手口だ。ただ、ぬいぐるみが1万~3万円台なのに対して、ペットは10万円以上するから客の出費は大きい。
かつての日本にはクリスマスの夜に女の子が男どもにティファニーの小物を貢がせる文化があった。このときは数人に同じものを貢がせ、ひとつは取っておいて残りを質屋で売った。
以前、ナイトクラブで飲んでいたら、ホステスにこう言われた。
「わたしはウン十万円の高級ハンドバッグを買ってもらって質屋に売る。買ってくれたお客さんに食事に誘われたら、友達から同じバッグを借りて会いに行く。そのために友達が持っている高級ブランド品しかおねだりしないの」
たくましい。実にたくましい。というか、ここまできたら芸術だ。