「餃子の王将」社長射殺事件 犯人はベレッタにコートをかぶせて撃ったのか?

タバコの吸い殻を回収しなかった実行犯のドジぶり

餃子の王将の大東隆行社長(当時72=写真)を殺害した犯人として、特定危険指定暴力団工藤会系組幹部・田中幸雄容疑者(56)が逮捕された。

大東社長は2013年12月19日の早朝、京都市内の本社前で胸や腹部に4発の銃弾を浴びて死亡。事件の数年後に週刊誌が九州の暴力団との関係性を報じたことがあったが、続報がないまま時が過ぎた。そこに突然の逮捕となったためびっくりさせられた。捜査当局の執念に脱帽だ。

この事件が起きたとき、銃器犯罪の専門家からコメントをもらって記事を書いたことがある。事件は早朝に起きたのだが、銃声を聞いたという証言がなかった。そのことについて専門家は、使用した弾丸が25口径と小型だからだろうと推定した。

25口径は直径6・4㍉。この弾丸はもともと発射時の音が小さい。そのため銃身に厚手のコートをかぶせて撃てば音が響かず、周辺に聞かれる可能性が低いという。

使われた銃がイタリア製ということも判明していた。これについては、
「イタリア製の銃で25口径ということはベレッタを使ったのではないか。この銃は日本では暴力団組長のボディガードが護身用に所持するケースが多い。殺傷能力が低いことは彼らも知っているはず。そのため4発撃ったとも考えられる」

今回の逮捕の決め手のひとつがタバコの吸い殻だ。DNA鑑定が大きな証拠となった。

その昔、松田優作が殺し屋を演じた映画「遊戯」シリーズでは、主人公の鳴海昌平はタバコを吸いながら標的を待ち、消したタバコを必ずジャケットの胸ポケットにしまっていた。シリーズ第1作の「最も危険な遊戯」が公開されたのは1978年。当時はまだDNA鑑定という言葉も広まっていなかった。殺し屋鳴海はタバコの銘柄を知られ、唾液検査で血液型を特定されることを嫌ったのかもしれない。

つまり昔から、タバコの吸い殻は取り扱い注意のシロモノなのだ。そう考えると吸い殻を残した実際のヒットマン田中はドジを踏んだともいえそうだ。

鳴海もそうだが、映画などのスナイパーはライフル銃で撃った際に弾丸の薬莢を拾って持ち去る。これは自分がどこから撃ったかを知られることを防ぐためだ。スナイパーの技量や射撃方法を隠すための行為ということになる。

例の専門家に「スナイパーが自分の正体を知られないために持ち去るんじゃないですか?」と質問したら、こう言われた。
「そうではない。もし銃弾から身元がバレるんだったら、薬莢よりも撃った弾丸を全て持ち帰らなきゃならない。なぜなら弾丸には旋条痕が残り、使った銃が特定されるから。だけど撃った相手の体内から弾丸をすべて取り出すなんてことは不可能だ」
確かにそのとおりだ。

至近距離でも手が震えて命中しない

京都新聞は第一報の段階から共犯者の存在を指摘している。筆者も共犯者がいたのかどうか、もしいたのならどんな人物なのかに興味がある。田中のほかに銃撃に精通したプロが存在したのではないかと考えていたからだ。

というのも先述した専門家が、ヤクザ抗争の際にヒットマンを務めた人物から聞いた実話を話してくれたからだ。それによると、そのヒットマンはターゲットの人物に接近して引き金を引いたが極度の緊張感から、放った弾がすべて相手の体から逸れてしまったという。おそらくは「殺していいのか」という罪悪感で手が震えたのだろう。

昨日、事件担当の記者にその話をしたら、彼は「警察官もそうらしいよ」と話してくれた。彼が警察関係者に聞いたところでは、日ごろ射撃訓練をしている正義感の強い警官でも、いざ犯人を撃つ局面になったら、手が震えて照準が定まらないそうだ。

そうしたことから、大東社長の殺害には銃器の扱いに精通し、経験豊富なヒットマンが共犯者として加わっていたのではないかと思うのだ。やはり人間は自己の良心と闘っているのだろう。

だが、戦争に行った人の話などを聞くと、やがては殺人に慣れてくるらしい。戦場に駆り出されたという環境の変化が人間を殺人マシーンやレイプマシーンに作り変えるのではないか。

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