見栄っ張りなセレブ志向者をカモにする 大型マンションの電気屋の騙しテク

クルマは隣駅の半額セールで惣菜を買うため

少し前に本ブログでブティックの女性販売員が世間話をするだけで商品を買ってもらい、売り上げトップを続けているという話を書いた。筆者はそうした物売りの裏話が好きだ。

以前、田園都市線のある駅の周辺に住んでいた。住所は川崎市だ。この駅のそばに大型マンションが建ち、その1階にこじんまりとした電気屋があった。

あんなところで電気屋をやって儲かるのかなと思ったら、近所の商店のオジサンが、
「何言ってるんだい。あの店はボロ儲けしてるんだよ」
と教えてくれた。人間の虚栄心を利用して売り上げを伸ばしてきたという。以下のようなからくりだ。

マンションに引っ越してきたばかりの人は電球や電気コードなどをこの店に買いにくることが多い。買いに来ない場合は電気屋のほうから「こんにちは。下の電気屋です。お安くしますよ。あとで覗いてください」と挨拶に行く。いずれの場合も、新たな住人の多くが1階の電気屋に行き、陳列された電化製品やカタログを見る。

このとき、
「そういえばテレビの映りが悪い。そろそろ買い替えかな」
などと思う。そこで店員に「どのテレビがオススメ?」と質問する。べつに買うつもりはない。念のために聞いておこうかという程度だ。

電気屋は、
「このマンションの方はみなさん、このクラスのテレビをお買い求めになります」
と商品を指差す。まあまあの高額だ。客は大型マンションに引っ越し、自分がセレブになった気分に浸っている。一種の優越感だ。

そのため、
「引っ越したんだから、新しいテレビを買ってもいいかな」
と気が大きくなる。顔に「買いたい」という文字が浮かぶのを店員は見逃さない。すかさずこう続ける。
「先週、お宅の下の階の方に20万円のテレビをお買い上げいただきました」
「えっ、20万円?」
「はい。広いお部屋では小さなテレビは見劣りしますからねぇ。下の階のお客さまは大型画面のテレビをお求めになりました。大型じゃないとお部屋と釣り合いが取れませんから」

客は思う。
「下の階もうちも間取りは同じ。よおし、向こうが20万円なら、うちは30万円を買おう。決めた~ッ!」
こうして30万円のテレビをお買い上げとなる。客は見栄を張った結果、カモにされるわけだ。というか、カモの一丁上がりである。

ちなみに例のオジサンによると、下の階の人がテレビを買ったというのは購買欲を喚起するためのウソだという。階下としたのはウソがバレないため。もし「お隣の〇〇さん」と言い、カモがその隣人と仲良くなったら「うちはテレビなんか買ってません」と言われてウソだとバレてしまう。それに比べて階下の人と仲良くなる可能性は低い。つまり安全なウソなのだ。

また、こうした店員の挑発に乗ってしまうのは女性が圧倒的に多い。つまり主婦がカモになる傾向が強いのである。

「あのマンションの住人はみんなクルマを持ってるだろ。なぜか分かるかい?」
オジサンはニヤリとして筆者に聞いた。
彼によると、ここの住人はマンションの1階にあるスーパーで半額の惣菜を買いたがっている。でもみんな見栄っぱりだから、その姿をマンションの隣人に見られたくない。だから夕方まで待ち、クルマで隣り駅のスーパーまで行って、半額セールで買うのだそうだ。

「みんな生活費を切り詰めてマンションを買ったからねぇ。少しでも出費を減らしたい。だけど見栄っぱりな性格は抑えられないということだよ」

筆者はこのオジサンの話を聞き、人間心理の深淵に触れたのだった。そういえばニーチェはこんな言葉を残している。
「怪物と戦う者は自分が怪物にならぬよう気をつけるがいい。長い間、深淵を覗き込むと、深淵もまたキミを覗き込む」
深いねぇ。

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