脳裏に浮かんだ20代女性の真っ白な全裸遺体
去年のこと。自宅の近所を散歩していたら路上に女の生首が落ちていた。首はこちらに後頭部を向けて横たわっている。
その瞬間、以前、元警視庁刑事のUさんに聞いた話を思い出した。彼は現役刑事のころ「女性の死体がある」との通報を受けて現場に急行。あるマンションのゴミ置き場に行き、通報された物体に近づくと、女性らしき体が見えたのだと、こう説明してくれた。
「その女性というのが一糸まとわぬ裸。つまり全裸の女があお向けに横たわってるんだよ。だけど肌が異様に白い。画用紙のように真っ白。そこで『なぁんだ。マネキンが転がってるだけじゃないか』と苦笑いして近づいた。だけど、すぐそばまできたとき、ゾッとして足を止めた。本物の人間。全裸遺体だった。年齢は20代だったと記憶している」
人間は不思議なものだ。ちょっとした驚きで過去に聞いた話が一瞬のうちに脳裏を駆けめぐる。
筆者に見える後頭部は人間のそれよりも小さい。ということは人形か何かだろう。だが、Uさんの「マネキンだと思ったが、実は死体だった」という話から、逆もありえるという考えが浮かんだ。目の前のマネキンらしき後頭部が、実は本物の生首ということもなくはない。
そこで恐るおそる近づいた。結果はやはりマネキンだった。
落ちていたのは女性専用アパートの前の道。この一帯はゴミ回収日にカラスがゴミ袋をつついて食べ物をあさることが多い。カラスも生きるのに必死だから口ばしで思う存分袋をつつき、中の食べ物を出して食べる。カラスはお行儀が悪い。あちこちにゴミを散逸させる。この日もそうだった。出されたゴミが路上に広がっていた。
筆者はこのアパートの前にゴミが散らばっているのを何度も目撃している。使用済みの避妊具がベチャッと横たわっているのを見たこともある。そのときは「ここまでやるのはオスのカラス、それも変質者のカラスかな」と思った。
それはともかく、生首はご覧のように美容師が使うカットウィッグのようだ。冷静に考えれば生首なんてそうそう落ちているものではないのだが、それでも道行く人たちは歩みをゆるめ、恐々と覗いていた。
こうした風景を見るにつけ、カラスは通行人を怖がらせるためにわざとウィッグをここに置き、今ごろ電柱の陰でニヤニヤして見ているのだろうとも思ってしまう。
なにしろカラスは頭が良い。クルミの中身を食べるために路上に落としてクルマにひかせ、殻を粉砕する知能を有している。
以前、専門の研究者に聞いたら「カラスは犬より頭が良い」と言っていた。彼はカラスが公園の滑り台をすべる映像を公表した人だ。そういえばカラスが硬貨を口にくわえて自販機の投入口に入れる映像もあった。
そう考えると、やはりカラスが筆者をビックリさせるためにウィッグを道に置いたのかと考えてしまう。あのときの避妊具もドキリとさせるための仕掛けだったのか。エッチなカラス君め!