美容院のスタイリング剤 主婦の見栄を利用して高い料金を選ばせるインチキ手法

全員が「みなさん、どれを選ばれるの?」と聞いてワナにはまる

先日、大型マンションの1階にある電気店の話を書いた。新しく引っ越してきた家の主婦にウソをつき、大型テレビなどを買ってもらってボロ儲け。電気店の店主が女性の虚栄心を巧みに刺激しているという実話である。

この記事を投稿した数日後、理髪店を営んでいる知人のH君から「うちの親戚も似たことをやってるぞ~」との電話をもらった。彼の親戚は美容院を経営しているそうで、詐欺まがいのセールストークで客をその気にさせるという。

H君の叔母さんは20年ほど前から、都心の住宅街で美容院を経営。顧客の大半が女性、それも主婦ばかりという。

叔母さんは女性客をカット&シャンプーして、最後に、
「スタイリング剤はどれにしますか?」
と鏡の横におかれた3本のプラスチック製容器を指差す。容器は同じ形状で色違いだ。商品名は書かれていない。

H君も筆者も男なのでよくは知らないが、スタイリング剤とは髪の形、つまりヘアスタイルが崩れないよう保持する溶液で、美容師が手に取って髪に馴染ませるものらしい。

初めて来店した客はまず3本のスタイリング剤を見る。

ここで叔母さんが言う。
「一番右のはひと塗り300円。真ん中は500円。左のは800円です」
つまりスタイリング剤も品質によって「松竹梅」があるわけだ。その際、叔母さんは高いものと安いものにどんな違いがあるかを簡単に説明する。

するとほとんどの客、というより客の100%が、
「みなさん、どれを選ばれます?」
と聞く。

そこで叔母さんは、
「そうですねぇ。500円のをリクエストなさる方が多いですかねえ」
と竹のスタイリング剤を指差す。

女性客はどう反応するか。
H君が叔母さんから聞いた話では、
「じゃあ私は800円のでお願いします」
と松をリクエストする客が一番多く、だいたい7割弱。
「私もみなさんと同じで、500円のでいいわ」
の竹派は3割少々。
「300円にしてちょうだい」
という女性はゼロ。つまり店のオープンから20年間、梅をご指名した客はいまだに一人もいないという。

「これも女性の見栄を刺激したやり方でしょ」
H君は話しながらケラケラ笑っている。

300円は腐らないのか?

筆者は聞いていて気になることがあった。

一番安い300円のスタイリング剤は一度も使われていない。ということはこの20年間で腐っているのではないか?

実際、どうなのかをH君に質問すると、
「大丈夫。ちゃんと使ってるよ」
「どうやって?」
「実は3種類のスタイリング剤は料金は違うものの、中身はどれも同じ溶液なんだよ。業務用の安いのを詰めている。毎週、位置を変えれば、3本をまんべんなく使うことができる。客から、溶液の匂いが同じだと指摘されたときは『同一メーカーだから同じ匂い。でも成分は違う』と説明する。次回来店したときに、前回と容器の並び方が違うことに気づく客はいない。おかげで20年間、一度もバレたことがないらしい」

商魂たくましい叔母さんと、見栄で騙される女性客。20世紀も22年経った現代社会にこんな詐欺手法が堂々と使われているとは……。ある意味でアートである。
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