アジア太平洋戦争も同じメカニズム 戦場で死ぬのは一般市民の息子だけ
長期化するロシアによるウクライナ侵略。プーチンはついに兵士の部分動員に踏み切った。予備役の兵士など若者が戦場に駆り出させることとなり、ロシア国内に不安が広がっているとの報道が少し前にあった。
このニュースで興味深いのが反体制の活動家であるドミトリーが政府高官のペスコフ報道官の息子ニコライに電話したくだりだ。テレビの生放送で行ったもので、映像と音声が残され、日本のメディアでも報道された。
ドミトリー「ニコライ・ぺスコフさん、本日あなたに招集令状が出されましたので、お伝えしなくてはなりません。あなたはまだ良く理解されていないようですが、令状に従って、あす朝10時に徴兵事務所に来て下さい」
ニコライ「もちろん行きません。 私はぺスコフですよ、理解していますか? なぜ私が徴兵事務所に出向かなければならないのですか? これは違うレベルの話で、私の件はどうなるかよく考える必要があります」
ペスコフの息子ニコライは自分が政府高官の息子だから、戦地に行かなくていいのだ、あんまりしつこく言うと、親父を使って、あんたをつぶしますよといった考えのようだ。
ちなみにAFP通信によると、この会話のやり取りについて、ペスコフは「この件については息子から聞いている」としながら、動画の発言は一部のみを切り取ったものであると反論。一方、ドミトリーは「ロシアの政治家は国民を戦地に送るが、自分たちの息子は送らない」と皮肉っている。お偉いさんの息子に生まれたら戦地にいかずにすむというわけだ。
このやり取りを聞いて笑ってしまった。太平洋戦争の際の日本でも同じようなことが起きていたからだ。開戦前、戦争決定に関わった軍事指導者は東條英機をはじめ9人いたが、彼らの息子の大半は戦死していない。
ノンフィクション作家の保阪正康は「田中角栄と安倍晋三 昭和史でわかる『劣化ニッポン』の正体」(朝日新書)にこう記している。
〈戦争決定に関わった者の子孫は、例外を除いて戦死しなかったという事実も知っておく必要がある。
9人の軍事指導者のうち8人の子息は誰も戦死していない(伊藤整一の子息だけは軍人として戦死)。彼ら8人には自分たちの子供が死なないような例外的なケースをいくらでも作ることができたからだ。かつて陸軍大学校出身の元将校と話していて、こんなことを言われたことがある。
「君にもし男の子がいるのだったら、戦争が始まった時に息子が決して死なない方法があるのを知っているか」
私が「知りませんよ」と答えると、彼は、
「陸大に入れることだよ。陸大は今はないから防衛大学校だけど」
と言う。どうしてですかと問うと、
「陸大を出たのは前線に行かなくて済んだんだよ。必ず後方にいて作戦を練っている。今の防大出身者も同じだと思う。絶対に死なない。私の陸大時代の同期生は50人ほどいたが、そのうち戦死はわずか4人だよ。その4人は激戦地の連隊長とか参謀をやっていたから死んだのであって、そうでなきゃ決して死なない」
(略)
戦争には戦争のメカニズムがあり、その中で特権化した人間たちが自分に都合の良いようにメカニズムをつくりあげる。結局、国民は彼らが言う愛国心の下で利用されたのである。こうした事実は調べれば調べるほど明らかになる〉
今も昔も、戦争を推し進める国家の指導者はエゴイストというわけだ。
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