ダメモト入札で16億円をゲットしたフリーライター 嘘のような本当の話

わずか24ページの制作費が4000万円とは!

数年前、ある親睦団体の飲み会に出て面白い話を聞いた。たまたま隣りの席にAさんという筆者と同い年の人物が座っていた。世間話の中で、
「あなたはバブルのころ、仕事は順調でしたか?」
とAさんから聞かれた。

「僕は安月給の編集プロダクションに勤めていて、来る日も来る日もアイドルタレントらの取材をしていました」
と答え、「Aさんはどうでしたか?」と聞くと、
「月に1度、霞が関の役人たちをノーパンしゃぶしゃぶで接待していました」
という。

「えっ、それじゃ銀行とか証券といった金融企業にお勤めだったんですか?」
「いえ、僕は一介のフリーライターでした」
「フリーライターがノーパンしゃぶしゃぶで接待。何人をもてなすんですか?」
「10人ちょい。たいてい12人くらいかな」
「費用は?」
「まあ、ノーパンしゃぶしゃぶですからね。安くないですよ。1人あたり5万円。いつも12人を接待して総額60万円くらいかかりました」

筆者は耳を疑った。仕事柄、フリーライターの知り合いはたくさんいる。彼らの多くは金銭的に裕福ではない。いくら狂乱のバブル期とはいえ、一介のフリーライターが毎月60万円の接待費を捻出できるとは。
どんな仕事をしていたのか?

「ある中央省庁が発行するPR誌の制作をしていたのです」

よくよく聞くと、以下のような話だった。
バブル期の80年代後半、Aさんはある飲み会で中央省庁の役人と知り合った。役人は彼にこう勧めた。

「今度、省内に新しい部署を作り、職員向けのPR誌の発行を始めるんです。その仕事を受注する業者を選ぶ入札が近く行われます。参加してはいかがですか?」

Aさんは役所の仕事をしたことはなかったが、せっかくのお誘いなので、入札に出かけて行った。

PR誌はその省を退職した職員が定年後どんな方面で活躍しているかを取材してリポートする記事のほか、芸能タレントのインタビューなどを盛り込むものでオールカラー版、全24ページ、年に4回発行という。

筆者もデザイン会社でセールプロモーション(SP)の仕事をしたことがある。24ページははっきり言って大きな仕事ではない。Aさんも「しょぼいなぁ」という気分だった。

「もっと入札額を上げろ」と指示した役人

とはいえ入札には参加した。どうせ落ちるだろうと彼は思い、ダメモトで1号あたり「2000万円」で入札しようとした。すると先日の役人が、「その金額では当方(つまり官庁の新設部署)の予算を使い切ることができない」と耳打ちした。暗に「もっと金額を上げろ」と助言しているのだ。

そこでAさんは半ばヤケクソになり「4000万円」で入札した。かなり吹っかけた金額だ。ところがこれが通ってしまった。つまり24ページの小冊子を4000万円で請け負ったのだ。

断っておくが、この4000万円は印刷費は含まない。純粋に編集費である。

筆者も少しはSPの世界を知っているのであえて言うが、24ページの編集費など高が知れている。取材ライターの原稿料、同行したカメラマンの材料費(フィルム代など)とシャッター代、レイアウトするデザイナーのギャラ、それに芸能タレントの出演料などが大きな支出だ。これに交通費や取材時の喫茶代などがプラスされる。通常なら100万円あればおつりがくるはずだ。それに4000万円とは……。

「自分だけ儲けては申し訳ないので、知り合いのライターやカメラマン、デザイナーなどに声をかけて手伝ってもらいました。それなりのギャラを払い、みんなが裕福になれましたよ」

発行回数は年に4回。つまり年に1億6000万円がフリーライターのAさんに振り込まれ、莫大な粗利をもたらしたことになる。

しかもだ。彼はこの仕事を10年間に渡って受注し続けた。手にした金額はトータルで16億円。あの電通も顔負けの濡れ手で粟の世界。だからこそ毎月、役人をノーパンしゃぶしゃぶで接待できたわけだ。

Aさんとこの官庁の関係が切れた、つまりPR誌が休刊になったのが98年ごろ。世の中は1989年にバブルのピークを迎え、翌年から「バブル崩壊」という言葉が広まり、不良債権問題などで政界も経済界も、そして国民も苦しんでいた。

その一方で、ちゃっかり10年間大金を稼いでいた人がいたわけだ。本当にビックリな話だ。というか、人の話を聞いてみないと世の中の裏側は見えてこない。犬も歩けば何とやらではないが、世間には面白いネタが転がっている。

それにしても運のいい人がいるものだ。Aさんが飲み会で官庁の役人と出会わなかったら、出会ったとしても入札に参加しなかったら、彼は16億円にありつけず、フリーライターとして細々と生きていただろう。言うなれば、バブル期に生まれたわらしべ長者である。

念のために言うと、Aさんに支払われた16億円はすべて税金から出たものだ。また、Aさんに非はない。彼は通常のビジネスとして合法的に利益を上げた。しかも仲間内に大金を分配したのである。

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