汚物まみれなのに招致活動に没頭する札幌五輪の愚
9日放送の「サンデーモーニング」(TBS)でニュースキャスターの松原耕二がある学者の集計結果としてこんなコメントをしていた。
「日本が主権を回復して去年東京五輪が終わるまでの70年のうち、なんと85%にあたる59年以上を(五輪の)招致活動か準備期間にあてていた。この学者さんは日本は五輪の依存症あるいは五輪中毒ではないかとおっしゃっている」
筆者は「五輪中毒」という分析にひざを叩いた。この学者の言う通りだ。日本人の中には「ビッグイベントをやれば幸せになれる」という迷信に取りつかれた人がいる。いるというより、圧倒的に多い。だから常に招致活動に邁進する。五輪だけでなく、万国博覧会も同様だろう。
数年前、有識者の集まる討論番組であるコメンテーターが東京五輪に異論を唱えた。「あんなカネのかかるイベントは今から中止するべきだ」という彼に、御用学者の竹中平蔵が薄ら笑いでかみついた。
「何を言ってるんですか。東京五輪は何十兆円もの利益を生み出すビッグイベントですよ」
竹中お得意の冷笑するような口調だった。
「五輪が開催される東京の夏は温暖で、アスリートが最高の状態でパフォーマンスを発揮できる理想的な気候です」
2013年、東京五輪招致委員会は国際オリンピック委員会(IOC)に提出した立候補ファイルにこんなまやかしの文言を盛り込んだ。東京の夏の猛暑が深刻な状況なのは日本中の誰もが知っている。なのに「温暖」で「理想的」とは何たることか。よくもまあ、こんなウソをと絶叫したくなる。
1964年の東京五輪は10月10に開会式が行われた。なぜ秋になったか。理由は真夏だと猛暑のため選手たちに負担をかけるからだった。
64年は今から58年前。当時、筆者は東京にいなかったが、おそらく今ほどの酷暑ではなかったはずだ。まだ現在のようなヒートアイランド現象も起きていなかった。そんな時代においても関係者の胸には東京の暑さに対する警戒感があった。ウソまみれ五輪の現代から見れば、まだ「良心の時代」だったとも言えるだろう。
安倍晋三は五輪招致の最終プレゼンで、福島第1原発の汚染水について「状況はコントロールされていると私が保証します」とウソをついた。有名な「アンダーコントロール」発言だ。
招致活動では電通が暗躍。IOC委員に票の取りまとめを依頼する裏金2億3000万円を払ったとかで、フランスの検察が竹田恒和をマーク。17年2月、都内のホテルでフランス検察の捜査共助要請を受けた東京地検の検事が、竹田の事情聴取を行った。逮捕はされていないが、竹田はヨーロッパだけでなく米国にも足を踏み入れたら逮捕されると言われる。
なんだかロス疑惑で一審で有罪判決を受け、のちに無罪となった三浦和義のようだ。三浦は08年にサイパン島で警察当局に逮捕され、移送されたロス市警の留置場で自殺した。「米国に足を踏み入れたら捕まるぞ」との助言を無視したがゆえに捕まってしまった。
竹田は「俺もああなる」と怯えているだろうし、今後ヨーロッパや米国に行くことはないだろう。ちなみに竹田は旧皇族竹田宮恒徳王の三男だ。
世界に向かってウソをつき、検挙に怯えるほどの裏金を使った。元電通の高橋治之は賄賂で逮捕された。
日本の五輪は汚物まみれだ。おまけにバッハに言いくるめられて、昨年は新型コロナのデルタ株が猛威をふるう中、無理やり開催した。本来、国民の生命を守るべき政府がIOCやJOCの利益を優先したのだ。
ビッグイベントが幸福を呼ぶという妄信
こうなった原因の一端は日本人の国民性にあると思う。わが大和民族は「何か大きなこと」をやるのが好きだ。大きなことをやれば幸せになれる。つまり「ビッグイベント=幸福」という裏付けのない妄信に取りつかれている。
1945年12月、日本海軍はハワイの真珠湾に奇襲攻撃を行い成功をおさめた。このとき日本中が歓喜に酔いしれた。わずか数時間で2600人もの米兵を殺害し、戦艦3隻を撃沈。米英から中国やインドシナからの撤退を要求され、悶々と不満を抱えていた国民にとっては、まさに胸がスカッとするビッグイベントだった。だが、そのビッグイベントの先には国民310万人の無駄死にと無条件降伏という悲劇が待ち構えていた。一方、東京五輪の欣喜雀躍の先には裏金や賄賂による大規模疑獄が待っていた。
13年にIOC総会で東京が開催地に決まったとき、制服を着たアスリートたちは狂喜乱舞した。それはまあ、いいだろう。筆者が変だなと苦笑したのはテレビ朝日アナウンサーだった富川悠太(現・トヨタ自動車)までもが「やったぁ!」と快哉を叫んだことだ。冷静であるべきジャーナリストまでが、お国に従順であることを美徳とするスポーツ選手に交じって大喜びとは、まことに情けない。いや、見苦しかった。そのことの反省なのか、富川アナの喜びの雄叫びが映った映像はもう何年も見ていない。テレ朝は恥と感じて、お蔵入りさせたのだろうか。
先述したように、東京五輪は汚物まみれ。そのことはニュースとして世界に発信されている。日本に五輪が来ることは当分ないだろう。
それなのに札幌は2030年の冬季五輪のためにいまだに招致活動を続けている。経団連の十倉雅和会長などは今月7日、同市の大倉山ジャンプ競技場を視察し、あらためて協力を明言したほどだ。
映画「ラ・マンチャの男」でドン・キホーテが風車に向かって突進する姿に、筆者は滑稽さよりも「愚かで、かわいそうだなぁ」と同情を感じた。五輪中毒に冒された「札幌の男」たちもなんだかかわいそうだ。彼らは今も突進している。「見果てぬ夢」に向かって。