会員は「黄身がしっかりしている。全然違うなあと感じた」と言うが…
ねずみ講の摘発は約10年ぶりだそうだ。
「みんなのたまご倶楽部」を運営し、全国の1万1000人から約3億円を集めたとして、代表者の峯岸正治容疑者(58)が無限連鎖講防止法違反で逮捕された事件。峯岸らは「卵を購入すれば報酬が得られる」を売り文句にしていた。
入会金1万円を払い、月額1万3000円を支払って新規会員を紹介すると毎月卵90個とおよそ160万円の配当を受けられるとうたっていたが、実際に卵を受け取ったのは会員の8割ほどだったという。
峯岸は過去に出資詐欺で逮捕された男から手口を学び、みずからを「金儲けの天才」と自負。イラスト入りのTシャツなどを作り、マスコミの取材も受けていた。騙し取った3億円の中から8000万円を受け取っていたとみられている。
峯岸は弁舌が巧みで、セミナーを150回実施して高齢者らに、
「おばあちゃんでも、おじいちゃんでも、『できない』んじゃないよっていうことです。できる証明をして、たった2カ月で24万3750円取る。毎月(お金を)欲しいという人。欲しいよね。その代わりあるんだよね、1万3900円で卵を買わないと、お給料をもらえませんよ」
と熱弁をふるっていた。
年金受給者が生活費の足しにしようと、峯岸を信用したのだろう。国民生活センターには昨年11月ごろから、卵をめぐる相談が十数件寄せられているそうで、みんなのたまご倶楽部関連である可能性も高い。
12月1日放送の「報道ステーション」は男性会員を取材し、峯岸が「男はいらない。もう女性だけでいい。男は欲深いし、暗闇だからいらない」と女性をターゲットにしていたとの証言を取っている。実際に会員は「圧倒的に女性」が多かったという。
気になるのは商品に対する会員の評価だ。峯岸は「高機能性ミネラル卵」「高級卵はサプリメント」と称して1個150円で販売し、ある男性会員は、
「黄身がしっかりしている。箸でつまんでも破れない。全然違うなあと感じました」
と好意的にとらえている。
だが報ステによると、この卵はスーパーで15円ほどで売られているものだという。つまり15円のスーパーの商品を10倍の150円で売っていたことになる。例の男性会員は峯岸の口上を信じ、特別な卵と過信してしまったようだ。
「美空ひばりさんのお気に入り」で飛ぶように売れた
この証言から、筆者は大学時代の友人のN君がやっていたバイトを思い出した。
今から40年ほど前のこと。東京農大の学生だったN君は紀州の南高梅を売るバイトをしていた。百貨店の特設スペースや食品のイベント会場などで買い物に来た主婦たちに売るのだ。日当は1万円。喫茶店のウエイターの時給が450円前後の時代に1万円は破格だった。
なぜ破格な金額だったのか。答えはインチキだったからだ。
N君は個人でやっている男性販売業者(親方)に雇われた。親方の年齢は50代。両手の小指が欠損している。親しくなって聞いたら、元ヤクザだった。
彼ら2人の仕事は複数のスーパーでパック入りの梅干しを大量に買い、ハサミで封を切って、大きなガラス瓶に投入することから始まる。これを持って会場に行き、台の上に並べて、
「みなさん、紀州の南高梅ですよ」
と声をかける。
通りかかった主婦に、試供品を食べさせる。
「どうです、奥さん。南高梅はそこらのスーパーの梅干しと違って味が上品でしょ」
と言うと、ほとんどの主婦が「おいしいわ」と頷く。
そこでN君が呟く。
「美空ひばりさんがここの梅干ししか食べないと言ってる南高梅です」
「へえ~、そうなの?」
「本日は現地からの直送ですから、通常の半額です」
客は迷いもなく、
「買った」
と財布の口を開く。
N君によると、毎回商品は完売していた。
つまりスーパーで買った安い梅干しをガラス瓶に入れて「現地直送。美空ひばりが大好きな南高梅」と言うだけで、飛ぶように売れたわけだ。
人間は自分で自分を騙す
N君は筆者と会うたびに、
「人間って、バカだよ~。なかには『ひばりさんのお気に入りだけあって、酸っぱさの中にまろやかな甘みがあるわねぇ~』などと満足して多めに買っていく人もいる。こうなると思い込みで自分自身をダマしているようなものだよ」
と笑っていた。
当時、スーパーで売っていたパック入りの梅干しは100円もしなかったと記憶している。これを100㌘400円前後で売りつくすのだから、笑いが止まらない。さすがは元ヤクザの“シノギ”である。
「ちょっとヤバい仕事だから、破格のバイト料をくれた。おそらくは口止め料。それともし警察に捕まり、俺が事情聴取を受けることになったときの迷惑料だね」(N君)
親方はN君とクルマで移動しているとき、
「あそこの山には何人か埋まっとるよ」
と言ってクククと笑ったりしたそうだ。
また、両手の小指を詰めた理由は教えてくれなかったが、「痛くなかったですか?」との問いには身振り手振りでこう答えた。
「痛いけど、痛くないよ。左の指を落としたときは左手を膝に乗せ、こうやって右手で酒を飲めばいいんや。右手の指を落としたときは左手で飲めばいい。それだけのことや」
親方は仕事が終わると、いつも飲みに連れて行ってくれた。会計のときにN君が親方の財布を覗くと聖徳太子の1万円札がぎっしり詰まっていたそうだ。