筆者は築地の店で騙されそうになり、板前のサル芝居を目撃した
日本人が好きな食べ物のベスト3というと、ラーメン、カレーときて寿司ということになる。このうちラーメンとカレーは手軽に食べられるが、寿司は高価なので店に入るときは少し勇気がいるものだ。偏見かもしれないが、筆者の頭の中には「寿司屋=ボッタクリ」という図式がある。
筆者の住む街にW寿司という店があった。あるとき子供のママ友の一家がその店で食事をした。30代の父母と5歳、3歳の娘の4人家族。小上がりで食べ、親が少し酒を飲むファミリーユースだが、会計になってビックリ。4万3000円という。そのママ友は、
「夫は『あ、やられた』と頭を抱えていた。子供は小さいから食べる量は少ない。大トロみたいな高級なものは食べてないのに、4万3000円は高すぎる。だけど仕方ないので払った」
と話してくれた。
その店は有名な芸能人が訪れる店として知られ、客にはテレビ局の関係者も多かった。
筆者はその数カ月後、このW寿司で働いてる女性と知り合い、価格の付け方について質問した。彼女はこう話してくれた。
「あの店のマスターはすべてどんぶり勘定。『マスター、お会計ですよ』というと、厨房の奥からお客さんの様子を見たあと、天井を見上げて『う~ん』と唸り、紙に金額を書いて私たちに渡すの。計算なんかしていない」
彼女によるとマスターは客の服装と飲み方を見て、相手が金持ちなのか、文句を言わずに払いそうなのかを検討し、頭の中で金額を決めるという。つまり客はマスターの言い値に従ってしまうわけだ。こういうのをボッタクリというのである。
ちなみに例のボッタクリにあったママ友家族はその後、駅前の別の店で食事したらまことにリーゾナブルな料金だったと満足していた。経営者の善意で料金が決まる。それが寿司屋なのかもしれない。
カウンター席が危ない
寿司屋はカウンター席が一番高いといわれる。以前、週刊誌で食通の人物が「カウンター席の料金は板さんとの丁々発止で決まる」と書いていた。グルメな客にはさしもの板前も「このお客はうるさそうだ」と警戒して、高い料金を吹っ掛けたりしないというのだ。
なるほどねぇと思った。筆者のような食べ物に無知な人間は真っ先に狙われそうだ。というか、実際に狙われたことがある。
10年ほど前、フリーライターのM君と打ち合わせを兼ねて東京・築地のSという寿司屋を訪れた。けっこう広い店構えだ。話題が寿司屋や居酒屋などの料金の話になり、筆者は、
「店で食事して会計するとき大抵の人は自分が何を食べて飲んだかの明細をチェックせず、言いなりに料金を払うものだ。ときには食べていない物が伝票に書き込まれているかもしれない。たとえばこの伝票を見ると……」
と言って目の前の伝票を手に取って読んでみた。なんとそこには注文もしていない料理(たしか1800円だった)が書き込まれていた。
筆者は店の女性従業員に「これ、注文してないし、食べてもいないよ」と通告した。すると女性従業員が口を開く前に、カウンターの中の50代くらいの板前がすかさず怒鳴った。
「お客さんが注文してないって!」
板前は女性従業員を睨んでいる。女性従業員は「すみません。取り消します」と言って頭を下げた。
断っておくが、筆者はたまたま飲食店の料金について話をし、その流れで伝票を確認したのだ。伝票をチェックしたのは人生で初のこと。その初の経験でボッタクリに遭遇、というかボッタクリに気づいたわけだ。
その夜は雨が降っていて客が少なかった。だから食べてもいない料理を伝票にもぐり込ませたのだろう。板前は女性従業員を睨んでいたが、それはバレときのために長年つちかってきたサル芝居と考えていい。つまり板前も女性従業員もグルなのだ。
高額を請求されたら「東京国税局」を名乗れ
笑ってしまうのが、そのSという店の現在の会計システム。この店は都内などに名前の違う数十軒のチェーン店を持つが、Sはもちろん、それ以外の店も会計の際に「召し上がった料理はこれでいいか確認をお願いします」と明細表を持ってくる。
筆者は昨年、浅草にあるチェーン店の一店に入り、明細表を見たが、ボッタクリの痕跡はなかった。
「ボッタクリ手口がバレて問題になり、健全経営に方針転換したのかな」
と連れの男性と苦笑いしたものだ。
ついでに言うと、雨の日は客が少ないため、料金が高くなるのは銀座のクラブも同じ。ご注意されたし。
こうした寿司屋のボッタクリについてベテラン記者に話した。会計の際に高額の料金を請求されたらどうするべきかを質問したら、彼は「まずは領収証をくださいと要求しろ」とこんなことを教えてくれた。
「領収証の宛名を何にするかと従業員に聞かれたら、『東京国税局』で書いてもらう。すると相手はビビる。そこで『ずいぶん儲かってますねぇ。明細をもらえますか?』と頼む。相手が明細がないと言ったら、『それは変でしょ。商品には個々に値段がついていて、それらを合算したものが総額でしょ。どんぶり勘定なら、それはボッタクリということになる。明細を出してください』とひたすらねばれ」
ボッタクリは誰もが認める詐欺行為。場合によっては警察に通報してもいいかもしれない。その場合はどうなるのか。いずれ弁護士に聞いて続報を書きたい。