手術を宣告された男性はバファリンで治った
先日、友人から面白い話を聞いた。関西の大学の付属病院に「切り魔」がいるというのだ。切るといっても、夜道で人を斬る江戸時代の辻斬りではない。手術が大好きな脳外科医のことだ。
彼はこう言う。
「その医者は脳外科の権威で1日に手術を3回も手がける。普通、脳の開頭手術は神経を使う大変な作業だから、1日に2度くらいが限度のはず。なのに彼はガンガン手術をしたがるので有名だ。手術で他人の頭を切りたがるから『切り魔』なのだ」
友人によると、こんな逸話があるという。ある初老のオッサンが「頭痛がする」との理由でこの大学病院を受診した。どういうめぐり合わせなのかは知らないが、オッサンは脳外科に回され、切り魔先生の診察を受けることになった。
切り魔先生は一通りの診察をしてから、「これは脳に腫瘍ができてるかもしれませんね。心配だから、頭を開いてみたほうがいい」と言い、
「私は今日の午後が空いてるので、さっそく今から手術しましょう」
とニンマリしたという。
オッサンはびびった。そりゃそうだ。頭痛を治したいだけのつもりだったのに、その場で「頭を切るぞ~!」と迫られたのだから。まるでマッドサイエンティストに見込まれた人間モルモットだ。
友人は言う。
「そのオッサンは『手術は今度にします』とか何とか言い、ほうほうの体で病院から逃げてきた。そのあと家でバファリンを飲んだら頭痛が治ったそうだ」
なんと市販の頭痛薬で簡単に治ったというわけだ。
筆者は「頭を切られなくてよかったですね~」と相づちを打った。我ながら変なレスポンスだなと思った。
その後、都内の私立医大の外科医と食事した際に「外科医という職業はやはり手術が好きなんですか?」と聞いた。彼は10秒くらい考えてから、
「やはり手術は好きですね。燃えます」
と答えた。
世の中は適材適所。こうした外科医が「鬼手仏心」でわれわれの命を守ってくれるのだ。だけど趣味で切るのは勘弁してね!