ゾンビの勅使河原さん
「愛が偽りに終わるとき」(文藝春秋)

ゾンビの勅使河原さん

昨日、統一教会が行った記者会見を夜のニュースで見て、「えっ、これは……?」と思わず声を上げてしまった。なんと、あの勅使河原秀行が弁護士と2人で登壇しているではないか。「まだ統一教会にいたの?」と思うと同時に、不謹慎ながら、懐かしいなぁという気持ちが込み上げた。

今から30年前の統一教会騒動のとき、彼は新体操選手だった山崎浩子と合同結婚式で結ばれた。同じ会場で結婚したのは歌手の桜田淳子だった。山崎は合同結婚式終了後、まもなく勅使河原の前から姿を消した。統一教会の正体に気づいて脱会したのだ。

残された勅使河原はあわてて会見を開いた。
「僕の妻の山崎浩子。もしかしたら妊娠しているかもしれない山崎浩子がいなくなりました」「世の中には信者を脱会させることをなりわいとしている人もいると聞きます。そうした人が協力したのではないか……」
うろ覚えだが、こんなことを勅使河原は会見で語っていた。「妊娠」に触れたのは夫婦の契りを結んだことを世間にアピールするためだったのだろう。

山崎浩子は当時のスポーツ界では美人選手として知られていた。しかも有名人。他人事ながら、筆者は「勅使河原はラッキーな男だ」と少し羨ましく思っていた。勅使河原自身も結婚発表会見で喜んでいた。

その自慢の“合同結婚妻”が逃げたのだ。おそらく教団の手前、面目もつぶれてしまう。そのため緊急会見を開いたのだろう。彼が言いたかったのは「みんなで探して欲しい」ということだった。

だが山崎浩子は帰ってこなかった。彼女は脱会を宣言し、TBSの朝のワイドショーに緊急出演した。スタジオで司会者やコメンテーターら全員が拍手をしながら立ち上がり、花束を渡して迎えたのを覚えている。「うちの番組によくぞ出てくださった」という感謝感激がスタジオ全体に充満し、その喜びがブラウン管越しに伝わってきたものだ。

勅使河原は京都大学卒。統一教会騒動のときは大和証券に勤務していた。あれだけテレビに出まくって、しかも統一教会の欺瞞性も報じられている。なのに会社は勅使河原の行動を黙認していた。筆者は「まさに信教の自由による行動だな」と感心したくらいだ。一昔前だったら、会社から「キミ、辞職してくれよ」と勧告されてもおかしくない。大和証券としては、一流企業の矜持を示したのだろうか。

山崎浩子は94年に文藝春秋からエッセー本「愛が偽りに終わるとき」(写真)を出した。同社の週刊文春が有田芳生とともに統一教会問題をがんがん報じていたことから、出版元に選んだのだのだろう。

安倍晋三が凶弾に倒れ、統一教会という教団の反社会性と自民党支配に注目が集まる中、突然テレビカメラの前に現れた勅使河原秀行。まるでゾンビが蘇ったようである。

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