毎日田んぼに出る貧しい人ほど健康で満足な死を迎えられる科学データ
先週、テレビの情報番組で、今年は北海道でサケが豊漁だとのニュースをやっていた。石狩の漁業組合の理事が言うにはサケだけで29億円の売り上げになるとか。「70~80日働いて2500万円くらいになる」と興奮気味に語っていた。
豊漁ということは漁師さんたちはホクホク。われわれ庶民も安くサケが食べられるのでダブルウィンだ。物価高騰の折に朗報である。
その一方でふと思ったのがわずか3カ月程度の労働をしたあとでのんびり暮らすのは体に良くないだろうなぁということだ。
ノンフィクション作家・奥野修司の著書「満足死 寝たきりゼロの思想」(講談社)を読むと、高齢者を比べた場合、漁民と農民では農民のほうが健康の比率が高いようだ。同書は高知県佐賀町の医師を取材したノンフィクション。興味深いデータが紹介されている。
佐賀町の人口は4800人で、その3分の2が漁労中心の地域に住み、残りの3分の1が農業中心の地域に住む。単純計算で農民は漁民の半分ということだ。
ところがこの町に住む90歳以上の元気な人27人のうち、20人が農業中心の地域に住み、漁業中心の地域はわずか7人。漁業中心の地域のほうが人口の絶対数が多いのに元気な90歳がはるかに少ないのだ。
そもそもこの町では、人口全体に占める高齢者の総数も農業中心地域のほうが多い。数は多いが農業中心地域の長期入院者は5人。これに対して漁業中心の地域は19人と約4倍に及ぶ。特養老人ホーム入所者に至っては農業中心地域が4人なのに対して、漁業中心地域は35人と9倍近い数字が出ている。大雑把に言うと、農業をしている人のほうが高齢者になっても元気なのである。
なぜこうなるのか。町の診療医はこう分析している。
「(漁業の人は)仕事に爆発的なエネルギーをつかい、高給取りも多い。陸に上がると、お金も時間も余っているのに、やることがないからゲートボールで遊ぶぐらいです。反対に山の人(農業従事者)は、広い田んぼじゃないから収入も低い。(略)こつこつと畑仕事をせんと食べていけん。(略)毎日そこで野菜をつくったりしています。自分の体力にあわせて身体を動かしているんです。私は、数字の差はここにあると思っています。つまり元気でいたければ働くことなのです」
まことに示唆に富んだ分析だ。漁業は短期間に大金を稼いだはいいが、その分ヒマを持て余してしまう。これに対して貧しい人は毎日田んぼで体を動かすから年を取っても元気を保てる。言うなれば「長生き貧乏」な生き方だ。
周囲を見回すと、仕事などで現役を退いた人がその翌日から頭がボケ始めたという話をよく聞く。一方、昔から「八百屋のオヤジはボケない」といわれる。八百屋は商売の一例で、魚屋でもラーメン屋でも不動産屋でもかまわない。こうした商売をしている人は「明日は今日より儲けてやろう」とその方法を考える。これが脳を刺激するから、ボケているヒマがない。おまけに体を動かすから、脳も肉体も健康を保てるのだ。
というわけで、筆者はこの佐賀町の話を聞いて、これからはなるべく外出しようと決めた。おあつらえ向きに最近はフェイスブックも開始。いろんな写真を撮ってアップし、友人たちから「いいね」をもらえばボケずにすむのではないかと考えるのだ。こうした大義名分を樹立して「書を捨てよ、町へ出よう」と、読書嫌いの自分を正当化している今日この頃なのである。