悪徳占い師 悩める相談者をカモに洗脳するインチキな仕掛け

小道具を使って簡単にダマす詐欺な世界

前にも書いたが、筆者には電話占いをしていたM君という友人がいる。いつだったか、話をしているとき彼が占いにまつわるクイズを出した。少し長いが読んでいただきたい。

関東地方にQという占い師がいて、相談者に適格なアドバイスを与えることで有名だという。Q先生は古めかしい屋敷に住み、弟子も1人いる。その屋敷を悩みを抱えた相談者が訪れる。

M君が言う。

「相談者はまず小さな茶室に通される。そこに若い弟子がお茶を運んでくる。その際、弟子は『相談の依頼が多く、Q先生は忙しい。お話を効率化するために頭の中で悩みの内容を整理しておいてください』と相談者に告げる。その上でお茶を勧めながら『本日はどのような相談ですか?』とさりげなく聞く。相談者は話す。1分もしたころ、弟子は『ではお時間ですから、先生のお部屋にご案内します』と言って長い廊下を歩き、相談者を離れ家に通す」

離れ家の扉を開いて中に相談者を案内すると、弟子は「私はこれで」と言ってその場を去り、相談者はQ先生とマンツーマンで向き合う。

Q先生はこう切り出す。
「奥さん、本日はどのような相談ですかな?」
「実は娘のことで悩んでおりまして……」
「お待ちください。見えてきましたぞ。あなたはお嬢さんの結婚に悩んでいなさる」
「はい。そのとおりです」
「それも通常の結婚ではない。お嬢さんは外国人と結婚したがっている。あなたはお嬢さんが幸せになれるか心配だ。そうではありませんかな?」
「おっしゃるとおりです。なぜ分かるのですか?」
「私には見えるのです。お嬢さんも、その婚約者の姿も。お相手はカタール人ですな」
「す、すごい。先生のような方にお会いしたかった。私はどうすればいいのでしょうか?」
「もし離婚したら、ドーハの悲劇となる。ここは慎重に行動しなければなりませんぞ」

とこんな調子で占い鑑定が進む。この段階で相談者はQ先生の言いなりだ。娘が国際結婚をしたがっていることに悩んでいると心中を読まれたのだから、当たり前と言えば当たり前だ。

やはり占い師は運命が読めるのか?

「なぜQ先生は相談者の悩みを知ってるのか。からくりが分かる?」
M君が筆者に聞いた。
「その弟子が相談者から聞いた話をQ先生に伝えたんじゃないの?」
「俺の話をよく思い返して欲しい。弟子は相談者の話を1分ほど聞いて離れ家に案内する。相談者をQ先生の部屋に入れたらすぐにどこかに消える。同時に相談者はQ先生と向き合う」
「ということは……?」
「弟子がQ先生に何かを話す余裕はない」

確かにそうだ。それなのにQ先生は相談内容をずばりと当てた。不思議だ。
筆者は30歳のときにテレビでMr.マリックの超魔術を見て「この世に超能力は存在する」とダマされそうになったことを思い出した。あのときの感覚が蘇った。やはりQ先生は人の心や運命が読めるのだろうか?

「ふふふ……」
M君は笑った。
「冷静に考えてみろ。これは単純なトリックだよ」
「トリック? 何を使って?」
「ワイヤレスマイクだよ」
「えっ?」
「相談者が通された茶室の隅っこにワイヤレスマイクが仕掛けられていた。そこで話した内容が電波として飛び、離れ家のQ先生が受信してこっそり聞いていた。それだけのこと」

「たった1分で?」
「長いと怪しまれるから、短いに越したことはない。弟子は慣れているから1分もあれば大まかな話を引き出せる」

ガーン! 頭の中を衝撃波が駆け巡った。

筆者の中学時代、ワイヤレスマイクを使った遊びが流行った。ラジカセと同調させて、家の近所を歩きながら「いまタバコ屋の角にいる」などと話し、友人に聞かせて楽しんだ。当時、ワイヤレスマイクは1本2000円前後で売られていたと記憶している。

いわば子供のオモチャ。そのオモチャを使い、悩める大人を次々とその気にさせているとは! 最近はスマホを使う手口もあるそうだ。

ナポレオンズに聞いたマジシャンが長髪のワケ

かれこれ30年ほど前、人気マジシャンのナポレオンズを取材したとき、
「マジシャンがなぜ、髪を長く伸ばしているか分かりますか?」と聞かれた。「さあ?」と答えると、
「マジシャンは耳に小型のインカムをつけてアシスタントの声を聞いている。そのインカムを隠すために長髪なのです」と教えてくれた。

Mr.マリックの出し物にもあったが、スタジオの客席に向かって、自分の背中越しに花を何本か投げ、どの客が花を受け取ったかを当てる場面があった。Mr.マリックは背中を向けていたので誰かは見えない。客はMr.マリックが振り返ったとき、キャッチした花を隠している。こうした状況にあってMr.マリックは花を受け取った複数の客を言い当てる。これはアシスタントがマイクでしゃべった内容をインカムで聞いているからなのだろう。

「ただし、テレビ局は電波が飛び交っている場所。当然混線し、ガーガーピーピーと雑音が入ります」
ナポレオンズは苦笑いした。
「だからアシスタントの声が聞き取りにくい。あるマジシャンは焦って耳に手を当て、『えっ何? もう一度言って』と聞き返したくらいです」

不思議の裏には仕掛けがあるわけだ。先述の占い師を悪徳占い師というのだろうか。

だけどQ先生の信奉者は“神のお告げ”を聞き、安心して帰宅するという。信じる者は思い切り救われるのだ。

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